[田舎小説]石川 その1 ★ざふざふはな | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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今は昔。

加賀の国より先、夷をになどあまたありける国あり。その国の形、人の喉に似たるにて喉と呼ばれしが、名雅やかならずとて能登となむなりける。

その国の北の果てにざふざふはななる岬あり。能登は漆細工の知れる所なれど、こはざふざふはなより始まれりとなむ語り伝へける。

そは先のやんごとなき一の臣の若かりし頃の話にて候ふ。

嵐のいと強き日、その浦に赤毛青目の背丈六尺あまりの大男二三が六人ほど流れ着きけり。
いづれの国より来たるや。
漢、高麗の言葉も通じず。 あるは天竺より流れ来たにやあらむ。


あかをにの如き大男たちの言ふ。


どろふ、どろふ、まんじぇ、まんじぇと。

浜人の差し出だしたる竹筒の水を飲みて曰く。

せびあん、どろふ、とれえびあん。

おそらくは、海老のすり身を泥の如きあんとするを食ひたしと言ふにあんめり。
能登は大なる海老の採れる所なれば、浜人のそこらここらおとこをんな翁おぼこの海老をば求めて海に潜るなり。



あかをにの食ひて言ふやふ。


ぼん、とれとれ、ぼん。

海老のすり身の泥の如きあんを盆の縁まで舐めつくしけり。

かかるに、たとへ天竺人にあるべしとても、食ひ物の礼をば言わず、ただ取れ取れ盆はいかなることや。
天竺人ならず南の蛮にあるべし。

されどこのあかをにがやつら、後に山に生えし火脹れの木の汁をば器に塗り、朽ちることなき器をば作り伝へけるとなむ語り伝えける。

能登の輪島塗りなるがそれなり。




また、あかをにの三つ目の足のいと長く天竺の話に聞く、長さ九尺九寸あると言はれし象なる獣の鼻に似たりければ、きやつらがたどり着きし岬をば、ざふざふはなとなむ名付けけるとや。





★しま爺珍古昔物語より


毎度毎度、馬鹿馬鹿しい話で失礼。