いやあ、政さんもたくましくなられましたな。
およそ仙人のイメージとは離れた、色白で小肥りのわずかにチョビ髭を生やした男が言った。
全く変わったヤツだ。俺のオヤジでさえ俺を恐れて西国へ逃げこんでしまったのに、このジジイは俺を怖がっていないようだ。
今や政を名で呼べる者など、その男を除いて中原の民の中にさえ誰一人いなかった。帝国の民は、はや1億にさえ迫る勢いだったのにである。
もしこの男以外の者がそのような口のきき方をしたなら、胴体と首が別々に門を出ることになっていたろう。
密告を奨励していたから、飲み屋どころか家族の間でさえ滅多なことは言えない。先日も、呑んだ拍子に出た度衡に戯れ言を言った旦那を売って、わずかな銀を手に入れた役場の妻がいた。
そんな意味でも、その男は変わっていた。
で、どうなんだ。仙薬は?
癇癪持ちの政としてはひどくのんびりと訊いた。
これもまた不思議なことだった。
政は興奮すると喉がつまり吃音となる。赤ら顔が碧くなり膝が震えてくる。
側近たちが最もおそれたのは、そんな時だった。
いっときほど前まで酒を酌み交わしていた高官が、冷たい骸となることを幾度見てきたか。
下っぱで良かった。
今日もこいつを入れる胃の腑には穴が開いていないぞ。そう思いつつ、宮のおまる掃除夫はコウリャン酒で喉を湿らせた。
つづく