大半が7時前に帰途につくその部屋では、その時刻に残っている者は数人に限られていた。
9時。
残っているのは、ヨレヨレのシャツとくたびれて穴があきそうな靴を履いた爺さんと、ラフな身なりの新入社員の2人だけとなる。
どうもこのじいさんは、この会社の人ではないらしい。毎日毎日コンピュータとにらめっこして、1日に何度か叱られている姿も目にしている。かなりのボケじいさんらしい。時々見えなくなるのはタバコでも吸いに行っているのかと思いきや、手ぶらで出て行き、帰りにはなにやら書類らしきものを持ってきたりするから、どこか違う場所で作業をすることもあるのだろう。
しかし、このじいさんはなんなんだ?まるで浮浪者のような身なりだが、俺を知っているような雰囲気もあるし、先日訪れた海外子会社の副社長と、よく分からない言葉で笑い話をしていたりもする。変わった人もいるものだ。
と、若者は思っている。
さすがに違うな。
と老人は思った。
8時過ぎあたりから、新入社員であるその若者は、流暢な英語であちこちに電話をかけはじめる。
これ以上上手く話せる人は、あの会社では常務くらいだろうな。と独り言を言い、老人はコンピュータに足し算と引き算の答えをきいている。
やがては、その分野では世界を引っ張っていくヤツだわい。
すいません。これお願いします。新入社員がカードを手渡す。つまり、老人が最終退室者になるというわけだ。
老人は、今日の夜食をカップ麺にするか牛丼にするかを真剣に悩みながら、またコンピュータに目を向けた。

★本記事は小説です。従いまして、登場人物は架空のものであり、事実は98%程度しかありません。