
このごく潰しがぁー!
身体でも何でも売って、むしろ代ぐらい稼いできな!
あたしゃ、あんたを好きで産んだわけじゃないだ。 でも、あんたをここまで育てたんだからね。当然あたしに恩を返さなくっちゃならないよ。飯代くらいは持ってきな!
ほら、そんな所につっ立ってないで、 早くお行きよ。
ペッ!
ソイ25の通りが騒がしい。
日本なら小学校に入るくらいの、はみ出た腕からミミズ腫れのような赤い筋がある痩せこけた少女が、涙をこらえているように見えた。
40度の炎天下で、腕と大差ない太さの足が、雨に濡れた子犬のようにプルプルと震えている。
少女は、路上のむしろの家を追われたようだ。
むしろ無しでも眠れるが、やはり地べたにじかではつらいのに違いない。
少女の足が縺れ、地面に蹲った。たぶん朝から何も口にしていないのだろう。いや、昨夜の飯さえあやしい。
地元の住人は、そんな少女を助けるどころか、薄ら笑いさえ浮かべている。
なんと薄情な。
初めてその国を訪ねた観光客たちは、言葉はわからずとも、およその事情を察したのだろう。
計算ができずに紙幣ばかりを使ったために、ポケットいっぱい貯まってしまった釣り銭を、少女の小さな手のひらの近くに置いた。
ある者は、20バーツ紙幣さえ、その手に握らせた。
一行は、感謝の涙に濡れた少女を振り返り振り返りながら、次の買い物へと向かって行った。
その天使のような笑みに満足しながら。
一行がスクンヴットロードの雑踏に消えた頃、少女は今度こそ本当に満面の笑みを浮かべた。
スクッと立ち上がると、颯爽と先ほど追い出した女の座るむしろに向かった。
はい、おばさん。
今日のバイト代だよ。
おばさんはなかなか迫力があるから、明日も雇ってやるよ。
明日は、シーロムロードにしようか。
少女は女に、バーツとサタンの混ざった小銭を渡した。
初老にも見える女が、かしづくように、そのジャラジャラ小銭をおしいだく。
私もハッピー。
あの婆さんもハッピー。
そして、あの観光客たちはもっともっとハッピー。
だって、人助けをした喜びと、今の自分の幸せを、それ以上はないほどに感じたのだから。
私は、なんて素晴らしい仕事をしているのだろう。
少女は幸せな気分の中で、マンゴーを頬張った。
