
…………。
道代が急に黙りこんだ。
首を少し左に向け、目は斜め上の空を見ているかのようだ。
おいおい、どうしたんだよ。急に黙っちまって。
俺は道代の肩に軽く触れる。
あの~。
あの~。
道代の声がうわずっている。
俺は少しドキドキしてきた。
まだ、2回目のデートでキスもしていないが、なんか美味しそうな予感に目の前に薄桃色の光がちらつき始めた。
あの~。
また、かすれた声がした。
そのハスキーボイスに、俺の心臓はパクパク音を立て始めている。
何だよ、言ってみろよ。
俺は、ずいぶんと高飛車に出た。
あのね。
開いてるわよ。
道代は消え入るような声でそう言い、一瞬だけ視線を俺のへその下の方に向けた。
あっ!
薄桃色の光が、限りなく黒に近い灰色になった。
俺が高校2年の、春のことだった。
今なら、あーあ、と笑えるだろうが。