
あれは夢だったんだわ。
あたしは、そう思うことにしたの。
だから、お互い……。
ええ、だからあれは夢だったの。
あなたに会ったのは、最北の島だったわよね。
そう、あなたは背の高い男と一緒だったわ。
あたしたちは、横長のリュックを背負ったあなたをザリガニと呼び、背が高く少し猫背の彼をエビガニと呼んだのよね。
あの頃のあたしたちは、自分で言うのもなんだけど、あの島に咲いていたウスユキソウみたいに可憐で、キスゲくらいに明るかったわ。
ねえ。あなたはあの朝のこと、まだ覚えているかしら。
あの民宿の隣にあった小屋の二階でのこと。
お酒をたくさん飲んで、みんな酔っ払った。
そしてあたしとあなたは、当たり前のように一つ寝袋に入ったわよね。なのに、あなたは何もしなかった。
少し早めに寝袋を抜け出し、二階から降りていくあたしを、あなたは見ていたはずだわ。
私は二階から降りる前に、しばらくあなたを見ていたの。
そして、あなたもそれに気づいていたはず。
そう、気づいていたはずよ。
あなたには分かっていたはず。
ええ、だから、あれは夢だったの。
あたしは今日も、他人様のお札を数える仕事をしているわ。
でも、これはあたしのものじゃない。
それとおんなじ。
みんな、みーんな夢の中のことだったの。