
由紀は鍵の掛かったガラスの上に、人差し指でのの字を書いている。
その見えないのの字の真ん中には、四方向からのプチサーチライトに照らされて、一層輝きを増したブリリアンカットが、鼻高々に回転していた。
VS 0.82ct の札が見える。
まあ、素人相手ならそこそこの品質というわけだ。
僕は、鉱物結晶学を専攻したから、多少は石の見分けはつく。が、ダイアモンドとキュービックジルコニアの見た目の違いはさっぱりだった。
もちろん、フェルトペンでいたずらなどすれば一発で見分けがつくが、日本のジュエリーショップとかでは、そんなことをしたら叩きだされるだろうな、などと思いながら由紀の人差し指の動きを見ていた。
LCとかVVSではなく、VSというあたりが、なんともわざとらしい。
仮に本物だとしても、シンジケート価格だから、売値は1割かあ?
まあ、どっちにしろ、新入社員の僕には無理だけど。
由紀もそれを分かって眺めているだけだった。
初めてのCD、つまりカットダイアモンドを買ったのは、それから5年後のことだった。
それを指にはめたのは、由紀ではないが。
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昨日はスッポンポンで寝てしまい、風邪を呼んでしまいました。
熱はないが、咳が止まらず。
腹筋が痛くなりはじめています。
情けないない。
ホント、虚弱体質になってしもうた。
5、6年前までは、10年くらい病欠なしがウソのようだ。