
東南アジアの大都市に行くときの必携品。
後輩などに訊かれたときに、私が真っ先に挙げるもの。
それはカーディガンかセーターである。
シンガポールなりクアラルンプール、あるいはバンコクあたりに滞在、出張し、ある程度のホテルに泊まったことがある方なら、素直に頷いてくれるに違いない。
東南アジアのホテルやレストランは、高級になればなるほど寒いのだ。
そう。かの国々においては、寒さは超贅沢品なのである。
だから、40度くらいの街中を歩いてホテルに入ると、鳥肌が立つくらいの寒さを感じることもあるのだ。
一方、今や東京と比較にならぬほどの高層ビルが林立し、世界の覇者たる道を進みつつある国に行く際には、トイレットペーパーを必携品とアドバイスしていた。
だいたいにして、一般店は言うに及ばず、国有数のデパートでさえトイレを見つけること自体困難であった。
仮に運良くトイレがあったとしても、女性には無理だったろう。
男でも、隣と顔がぶつかりそうな開放的な空間で用をたすのは、極めて努力と勇気がいった。
誰一人いない空間でも、日本の個室トイレに慣れた者には出るものも出なくなってしまう。
観光旅行で訪れた女性が、素晴らしいアイデアを思いついた。
傘を持ってトイレに入るのである。
これには感心した。
もう10年近く経つが、シンセン、トンガンあたりに行ったときには驚いた。
なんとトイレが個室であるばかりか、トイレットペーパーもついている。
しかも、それには透かし絵が入り白檀の香りがした。
かつては、畑の中で尻むき出しの娘さんの姿も珍しくはなかった。
ここ数十年で、見えるところは数百、数千年の変化をしたようだ。
しかし、トイレットペーパーを昔の名残で“手紙”と書くのは、まだそのままのようである。
なお、誤解のないように一つ付け加えておきたい。
前述の話は、外国人専用のホテル、例えば和平飯店や上海マンション、あるいは毛沢東、リンピョウの別荘などにはあてはまらない。
こちらは、30年昔も、今の日本以上のトイレがあった。
だから、こういう場所しか見ていない先生方には、私の話は大嘘ということになるだろう。