定吉、平成を語る | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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私はなし



いやあ、てえふうも行っちまって、ちいと肌寒うなりやしたね。
秋も本番でげすな。


ハッハッハ。

何言ってんのよ、定吉っちぁん。

まだ、うみの日が終わったばっかり。
これからが夏本番だよ。


へっ。文月って言ったら秋ざんしょ。
しかし、膿の日ってえのはなんですかい。猫の蚤取りがごしんぞさんから移されたりする、あの淋しーい病のことですかい。



いやあねえ。
膿じゃなくって、海。
暑くって働きたくない役人さんが作った休みのことよ。



へえ。
おれっちらの時代は、盆暮れ正月ぐれいしか休みなんざねがったが。



うん、うん。でしょ、でしょう。
ね。
お江戸の時代より、ずっとこっちのがいいでしょ。
食べ物だってたくさんあるし、みんなおしゃれでしょ。




……。




あら、なんかおかしなこと言った?




いやあ、一宿一飯の恩義もあるから、やっぱ言っちまうとまずいべな。


あら、気にすることないわよ。
あたしゃ、お江戸の話が聞きたいんだし。
遠慮することないから言っておくれよ。




ほんじゃ、言わせてもらいまっせ。
おらを体無魔針に乗っけた、白髪玄米先生も言ってやした。
嘘をついていいのは、鰻の売り込みと朝帰りの時だけだと。

へえ。じゃあ、言わせていただきやすよ。

いやあ、この世に来た時は、話に聞く地獄かと思いやしたよ。
だいだい、息もろくにできねえ。
お江戸もからっ風で馬糞が飛ばされ、ひでえ臭いがすっこともあっけど、ここは四六時中安宿行灯の、腐った魚油の臭いがたち込めていらあね。
おいらが初めてこっちへ来た時にゃ、息が詰まっておっ死んじまうかと思ったぐれえで。




へえ、そんなに空気が汚いかねえ。あたしなんか何も感じないけどねえ。



それよっかびっくらこいたのが水でさあ。



そうだろうね。
ちょいとひねれば、美味い水が出てくるものね。



……。



あら、また、違うって言うの。





へえ。
確かに澄んだ水でげすが、ありゃ飲み水じゃあごせえやせん。
沸かしたお湯も、ダメでげす。
お茶の味がしねえや。




そうか、昔はカルキなんか入れてなかっただろうから、そう感じるのかしらねえ。
でも、このポンポコリン山の清水は美味いでしょ。




はあ?
なんか薬臭くっていけねえや。小石川療養所の臭いに似てんなあ。




そんなもんかね。
あっ、そういや、白いご飯は美味いでしょ。
昔はめったに食べられなかったて聞いたわよ。




へえ。確かにしろまんまだけの飯は、盆暮れでも食えながったが、正直ここのしろまんまは、しろまんまでねえ。
なんか猫要らずみてえ臭いがすらあね。





そうかい。

でもね、着物は立派、みんなおしゃれでしょ。





ごしんぞさん。
この際だ、言わしてくだせえ。


長男の筒袴、膝やら尻あたりがボロボロだ。
おらっちも貧乏だが、つぎあてぐれえはしてやした。
せめて、手拭い生地でいいんでつぎあてしてやってくだせえ。




でも、もっと不憫なのが娘さんだ。

腰紐で縛ったぞうきんで乳隠しただけ。

下の方なんざ、ひらひらのふんどしだけだ。


あっしゃ、それを見たときゃ泣けやした。