故あってか、その家では、かなり髪の薄くなった男が家事をしているようだった。
家には子どもがいるが、祖父と孫というには、男が若過ぎるから、おそらくかなりの年になってから授かった子でもあるのだろう。
うわあ、貴族の料理みたいだね。
子どもが、目を輝かせながら言った。
スーパーで安売りされていた牛肉。
タレの方が値が張る。
300グラムくらいの、ミディアムレア。
うわあ、旨い。
それにやわらかい。
まだ中学生になったばかり。はや160センチメートルを超えたが、体重は49キログラムしかない。
全身が筋肉という感じで、BMIの値はマラソン選手並みだ。
いいか、フォークはこう持つんだぞ。
老人になりかけの男が、聞こえないため息を吐きながら言った。
こんな食事、毎日できたらいいね。
あっというまに、秋が駆け込んできた。
夜風が肌寒いくらいだ。
しかし、まだまだ冬はこれからである。
すごく旨い。
味噌汁も旨い。
毎日、こんなの食べられたらいいね。
子どもが、また同じようなことを言った。
遠くで、季節はずれの風鈴が鳴っている。
おわり