この星座は、おひつじ座とは対象的です。
というのは、この記事をご覧になっている方の、ほぼ全員が知っているからです。
えっ?
俺は、私は、星のことなんてさっぱり。
ましてや、星座なんか分かりません。
そう言うあなた。
大きな勘違いをしていますよ。
はい。確かに“おうし座”としては知らなくても、実はあなたは“おうし座”の一部を口づさみ、あるいは実際に見ているのです。
ただ、あなたがそれを知らないだけの話なのです。
いいですか。
“さらば~、スバルよ~”
っていう歌を聴いたり、歌ったりしたことがありますよね。
ほら、もうあなたは、“おうし座”のことを知っているじゃあないですか。
そう、この“すばる”こそ、おうし座の一部なのです。
すばるは、平安時代・清少納言とあだ名を付けられた女性エッセイストの“枕草子”にも『星はすばる』とあるように、多分夜空の中で一番目立つ存在です。
ですから、生まれも育ちも大都会の方で、夜空を見たことがないような場合を除いて、だいたいの人は、すばるを見ています。
じゃあ、思い出してください。
10円硬貨を親指と人差し指で持ち、腕を伸ばしてみてください。
その10円硬貨に隠れてしまうくらいの範囲に、数個の星の塊があるのを、見たことがありませんか?
視力が0.1以下ですと厳しいですが、0.3 ~ 0.7 あれば、ボワーッとですが冬の夜空に薄明かりの塊が見えます。
視力が1.0以上あれば、多分コの字型に連なる、5つか6つの星が見えるはず。
さらに、視力が3.5くらいのコイサン族の戦士なら、7つの比較的明るい星の塊が見えるでしょう。
はい、これが“すばる”です。
もし、あなたや近所に富士重工の車を持っている方がいたら、その車には“すばる”がかたどってありますよ。
ギリシャ神話では、ゼウスが恋をした女性の生んだ、7つ子ということになっています。
ゼウスというのはなかなかの、いやどうしようもないくらいの女性好きで、嫉妬深い妻ヘラに何度も痛い目に会わされているのに、こればっかりは止められません。
いい女性がいると、白鳥に化けたり、あるいは雲になったりして、その女性を自分のものにしてしまいます。
すばる7姉妹の母親の時には、おうしに化けたのです。
このあたりは、西洋絵画、特にルネサンス時代の絵に詳しい方なら、ああそう言えば……、と妖艶な女性の姿を思い浮かべられることでしょう。
何もないのに、ひどく恍惚の表情をしている女性。
これは、雲などに姿を変えたゼウスに愛撫されている姿なのです。
さて、おうし座には、このすばる以外にも、大変よく知られた天体があります。
例えば“かに星雲”。
かに星雲と言っても“かに座”とは関係がありません。
望遠鏡で見ると、カニみたいに見えることから名付けられたと思います。
そう、今では望遠鏡でしか分かりませんが、約1000年前の、西暦1054年。
今ではかに星雲と呼ばれるあたりは、月くらいの明るさになりました。
日本では、この様子が『名月記』に書かれていますし、西洋人の誤解からアメリカ・インディアン呼ばてしまっている、従来のアメリカ大陸住人の間にも、伝説として残っているようです(インターネットで調べたところ、陶器に絵作されているらしい)。
これは、星が爆発したからなのです。
また、少し星に詳しい方なら、ヒアデスやアルデバランという名前が出てくるでしょう。
アルデバランはほぼ0等星で、全天の中でも明るい方の星(太陽を除いた恒星で13番目)ですから、これは都会でも見えるでしょう。
アルデバランは、太陽の2.5倍の重さしかないのに、直径は約45倍。つまり、体積は数万倍もあります。
あまりに大きくて分かりませんか。
そうですね。
例えば、太陽をサッカーボールくらいとしますと、アルデバランは3階か、4階建てのアパート全体くらいになります。
ちなみに地球は、米粒どころかゴマ粒くらい。
いかにとんでもない大きさかが分かります。
しかし、私たちの住んでいる宇宙全体から見れば、アルデバランなんざ、ゴミ粒にもならない大きさなのですがね。
そうだ。
確か、古代エジプト語で星の発音は sbaaだったような。
starも似ていますなあ。
“つぶら”な目、“すばら”しい、という表現も気になるところです。
日本の“すばる”の方言にも興味深いものがありますが、今宵はこれまで。
ちなみに、私も九紫火星のおうし座。
あっ、年齢がバレちゃった。