
よろしゅうおますな。
もう一度言いますよって。
見るだけどすからな。触れたりしたらあきまへんえ。
まだ、半玉ゆうんを忘れんとくれやす。
ごしょう、お願いしましたさかいな。
かつては京極で名をはせた女将が、流し目で念をおした。
わかっとるばい。
そんなこつ、言われんとも、よう、わかり申す。
なんぼ同じこと言うたら気がすむんじゃい。
しだれ柳のお京さんと呼ばれていたが、こんなにも籐が建つなんざ……。
床の間に飾られたオミナエシが、すきま風に細い首を震わせた。

少女が軽く咳き込み、寝返りを打つ。
掛け布団がめくれて、華奢な顔立ちに反して豊かな、しかし、はりのある肢体が露になった。
風邪ばあ引くとよ。
私は誰にともなく言い、掛け布団に手を添えた。
が、言葉とは裏腹に、布団を少しずらしていた。
よろしゅうおますな。見るだけどすえ。触れたらあきまへん。
どこかで、女将の声がしたような気がした。
白蝋のような太ももに、絹糸のような産毛が光っている。
私は右手をそっと……。
おしまい。
