茶褐色のオーク製の重いドアを開けた。
私の好きなエチオピア・キリマンジャロの酸味ある香りの上に、重く香辛料に似たマンデリンのにおいが重なった。
と、私の身体が、しばし固まる。
黒く、どこまでも澄んだ瞳だった。
私はその瞳に吸い込まれそうになる。
言葉などいらなかった。
それは、第三者が見てもわかったろう。
私たちはずっと見つめあった。
ハーッ、というため息にも似た声のようなものが出る。
そうだ。
あの一瞬の留守番電話に残っていたのも、そんな声だった。
しかし、そのあとのひどく荒々しい、怒りいっぱいの男の声が聞こえたあと、すぐに切れたのだ。
私は、もう一度、彼女の全身を見つめた。
と、彼女は何を思ったか、急に店の電話に走り、受話器を取り上げた。
器用にプッシュボタンを押す。
と、
あの怒号が聞こえた。
コラーッ。
また、電話で遊んで。
ダメだって言ってるだろ!
男は私に気づいてか、急に声を改めて言った。
お客さん、すいませんね。
何か悪さでもしませんでした?
で、何をお召し上がりで。
私はキリマンジャロがやって来るまで、そのチンパンジーの黒い瞳を、もう一度見つめ直した。
★
ぎゃはっは。
妖しい話を期待した方、残念でした。
さて、今日は最終ですなあ。
コメ返しは、かなり遅れるかも。
ごめんちゃいです。