
(前略)
かばりあるほどに、この男の親、かかる顔したる子の妻なるを得るはいかにせん、とぞ思ひ夜もすがら泣きに泣きとぞ。
ここに男ありけり。
かくなるを聞きて、いざ妻得らるるば何をか得む、と言へば、親の言ふやう。
さあれば、金銀の一貫目こそ得らめ、とぞ言ひける。
あくる夜、この男、さる男の思はむ女の家屋根に登りて、はうはうと大声を出して言ふ。
我は三輪の神なり。
今こそ汝を食らわめ。
女の親も起きいで、ただただ恐ろしきになわなわと震へ、歯もくぁちくぁちと鳴りつるぞかし。
いざ、食はむ。
と言ひし時、女の親のはふはふと言ふ。
なんじゃう、わが娘を食らふや。我は三輪様には朝に夕に奉りてぞ。
屋根の上なる男の言ふは、さある男のこの娘への思ひじゅんじゃうならざれば、憎しと思ひてぞとなむ。
さあれば、我が娘にとがはあらざらむ。
親の言ふ。
かの男の心ばえ、姿形、我よりも高し。さあるよき男の、めずらしき娘を思ふを憎しとぞ思ふ。
さあるは、ことわりなし。三輪なる神はかかることはすらめ。
思ふに、汝は三輪様を語りたる鬼にこそあらめ。
ううっ、悔しきや。さあれば、かかる男の顔を食いちぎりけむ。
と言ひて声の止む。
つとめて、女の親のさある男の家におとなふ。
男の親の言ふ。
我が息子は、国一のめでたき男なりけり。されど、きのふ鬼の来て、顔を食らふ。
とよわよわと泣きけり。
女の親の言ふ。
我が娘の嫁ぐはいかにぞ。
さあれど、息子の顔ひょつとこになりつるを。
何をかあらむ。その心ばえ、国一ならばぞかし。
と言ひて、娘を男に嫁がせたとなむ。
鬼に化けたる男、二貫目の金銀を得たとなむ伝え語りける。
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