
そこには、やはり仕事で行った。
150キロぐらいでのんびりと(私にとっては決死のスピードだが、あちらでは怒鳴られるようなスピード)運転すれば、小一時間でモンブランに着ける、スイスまでは歩いても行けるフランス東部の町だった。
フランステレビTF1だったかアンテヌドゥだったか忘れたが、ヘリコプターでインタビューにやって来て、クリスマス番組あたりの中で、若かりししま爺のへたな英語がフランス全土に流れたらしい。
その当時は、フランスはかなり閉鎖的な国で、外国企業がなかなか入れず、ある意味不採算覚悟、政治的理由で、そんな山の中に工場を建てたのであった。
その町の人口は1万人ほど。日本なら村レベルだが、面積1.5倍、実際に人間が住める土地が日本の数倍ある農業国フランスにあっては、驚くほどのいなかではない。
むしろ、周囲100キロメートル、その県では唯一のミシュラン三ツ星レストランのある、比較的開けた町だった。
私はそのレストランのあるホテルを常宿としていた。
レストランは、各国の王やら大統領、あるいは宇宙飛行士などが訪れる、フランスでも指折りと言って良いレベルだが、ホテルとしての評価は一つ星。日本のビジネスホテルに毛が生えた程度、いや、今の日本のビジネスホテルのが立派かも知れない。
さて、会社で初めてのフランス長期出張者となった私は、2ヶ月くらい後には他のホテルに移ったのだが、その大きな理由の一つはこうだ。
とにかく、最初の滞在者だから、一部の方には物価がよくわからない。
で、なんとある時、誰かがペンションに泊まったレベルでの金額しかホテルに払わなくなったのだろうか。
最初の頃は、朝・夕食食事込みでホテル代を会社が払っていた。
ところが、ペンション並みの支払いとなったとたん何が起こったか!
楽しみの夕食にでたのは、なんとジャガイモ1個。
いやあ、あまり食べ物に苦情を言わぬ私も驚きました。
1日目は、まあ、面白いことがあるものだ、と余裕がありました。
が、さすがに3日目あたりになると、げんなりしてきます。
私はダイエットには興味がありませんしね。
だいたい、明け方は零下30度近くなることもある場所で、これはこたえました。
で、私には珍しく、食事に少々苦情を言います。
いや、私はフランス語などさっぱりでしたが、なんとなく相手には私の言いたいことがわかったのでしょう。
マダムの言い分は、どうも“これでも大サービスです”というようなことだったようです。
あとで知ったのですが、確かに支払い金額は、宿泊費込みでも、そのレストランのサラダ程度だったようです。
しばらくして、私は宿を替えました。
実にいいホテルで不満はなかったのですが、空腹には勝てなかったのです。
私のそんな事情を察してか、そのホテルを出る時に、レストランのシェフが私のために、特別料理を作ってくれたのです。
いやあ、これはうまかった。
しばらく空腹だったせいもあるでしょうが、さすがにミシュランの三ツ星です。
どこかの五つ星とは違います。
学生時代はひもじいのが当たり前でした。が、社会人になってからは、なかなかこういう経験はありません。
まあ、それでも、今よりはね。
最近、この時間まで食べないの当たり前だものなあ。
さて、夕食をいただきますかい。
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