秋の大嵐が終わり、青い空が天の果てまでつながった翌日。頬を突き刺す風と共に天からの白い使者が舞い降りてきた。
やっと、待ちに待った“キサ”がやって来る。
男たちは武者振るいしながら、同時に体の中から湧いてくる熱い何かを抑えられずに、そわそわとし始め、ある者は常に白い冠を付けた山々に向かって雄叫びをあげ、ある者は男同士で諍いをし、またある者は、若い女を無理やり草むらの中へと引きずりこんだ。
が、その年は何かが違った。
普段なら日に日に寒さを増し、天の白い使者も幾度となく降り、キサがやってくる。
大きいキサを一頭落とし穴に追込めれば、だいたい翌年の春までの空腹は満たされる。
多少小さいヤツでも、あとは白い鳥や、その卵でなんとかなる。
が、今年は、一度雪が舞ってからは、逆になま暖かかい南風が吹くばかりだ。
キサの姿はどこにも見えない。
族長は占い婆の部屋を訪ねた。
なぜ、キサがやって来ないのかを教えてもらう為だった。
「ヒッタ」
と婆は言い、六角柱の氷石をつけた杖を、太陽がもっとも力をつける方角の反対に向けた。
その杖の先には、夏も雪をかぶった山々がある。
そこは昔から、タブーの方角であった。
先祖の教え、いや体にしみついた、その方角への恐れに、すでに両手の指の数だけキサを仕留めた族長も、しばし体がこわばる。
確かにキサは白い使いと共に来る。だから、いつも白い姿をしたあの山々の方角に行けばキサを手に入れられるかも知れない。
が、あの方角には、眠りの悪魔、牙の神が住んでいる。
さらに空が燃えるとも聞いている。
だから、昔からヒッタは行ってはならぬ方角なのだ。
しかし、キサの姿さえ見えず、このままでは、いずれ一族は滅んでしまうだろう。
族長のァパッは、婆の占いに従い、太陽を背に受けながらヒッタに進めることを決断した。
夜は止まり星が、その進むべき道を教えてくれる。