さて、『双詩創愛』も最終回となりました。
この小説、ずいぶん間があきましたので、ここで簡単な前回までのあらすじと、種明かしをしておきましょう。
昔、ある男が川原で柿の葉に書かれた、愛の歌を拾い上げます。
その歌は、男などが見ることさえできない王宮から流されたもののようでした。
しかし、男どうしてもその女の歌が忘れられずに、返しの歌を、やはり柿の葉に書いて王宮を通る小川に流します。
それからずいぶんたって、男は親の勧めである女の家に婿入りします。
二人は子にも恵まれ、柿の葉の女への思いが薄れ消えゆく頃、男は妻に、はるか昔の柿の葉にまつわる話をします。
と、女はしずしずと箱を持って現れ、男が忘れられない思いにかられた歌は自分が詠んだものであることを打ち明け、その箱を開けました。
なんと、その中には柿の葉があり、墨が滲んで読めなくなったとはいえ、確かに男が詠んだ歌が書いてあったのでした。
ここで二人は、ひしと抱き合い、互いに深い縁で結ばれていたことに気付き、改めて愛を深めたのです。
ここまでが、前回のあらすじです。
そしてこれは、実は千年くらい昔書かれた、宇治拾遺物語を原典とした話です。
つまり、ここまでは多少設定を変えたり、歌を作ってしまったりはしていますが、基本的には過去の説話のコピーです。
でも、それでは芸がありません。
で、ここからが私の出番となるわけです。
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★双詩創愛 最終回
翌朝、男が家を出て行ったあと、女はふーっと長いため息をはいた。
「そんなことだろうと思ったわ。毎日のように桐箱の汚い柿の葉を見ているんですもの。ちょっと気がとがめるけど、これでいいのよ。
ずっと、誰かさんが私の後ろにいたら惨めですもの。
あの人だって、一生影を追い求めていたら可哀想だわ。
でも、よかった。
偽物だって気付かなくて。
もっとも、ずっと昔に流した柿の葉の色や形なんて覚えているわけはないでしょうけど……。
ちょっとヒヤヒヤしたわ。
でも、これでいいのよ」
女は、また大きく息をした。
「これでいいのよ。これで……」
女は自分にいい聞かせるように、何度か同じ言葉を繰り返している。
ケーン、ケーン。
遠くで雉の声がしたようだ。