小説:双詩創愛 その1 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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飛鳥河原では、ススキが穂を広げ、ワレモコウの赤い坊主頭があちこちに首を伸ばしていた。


男はいつものように、最近樫丘の上に建てられた宮に目を向ける。 

あそこには、俺なんかが……。

晩秋の肌寒さを感じさせる風が、痩せた男の骨の中を通りすぎる。

樫丘の宮に、薄雲がかかり、一瞬、そこから白檀の香りが漂ってきたような気がした。


が、また男はため息をつき、飛鳥川に目を落とす。

水量が減り、カラカラと軽やかな流れの音が、いっそう男を陰鬱な気分にさせている。 

すっかり緑が抜けたマコモがカサカサとなり、その間からカワウソが顔を出した。 

が、そいつは男をサッと眺めると、すぐに、また枯れ色の草むらの中へと隠れ込んでしまった。 




男は、また虚しく青空を映す川面に目を向ける。


と、男の目を何かが引き付けた。

鮮やかな紅(くれない)色の柿の葉が、マコモの根元でクルクルと回っている。 



男は、くるぶしに伝わる痛さに似た水の冷たさよりも、何かしら暖かいものが心に湧き出てくる予感に、その柿の葉を拾い上げた。





          つづく