さて、前回は『お母さんがパパ』だという話をしましたが、今回は『お父さんはババア』だという話です。
お父さんは父(チチ)とも呼ばれます。
時代劇などではよく、『トトさま』などという言葉も使われますが、どうもチチはその昔ティティに近い発音だったようです。
つまり、chichiではなくtitiまたはteteです。
中国山間部などに住む少数民族ミャオの風習や顔立ちは、かなり日本人に似ていますが、そのある部族で父はche、またこれは偶然の可能性が高いのですが、ルーマニア語ではtata:です。
私たちの日本語は、トルコからモンゴルまでユーラシア中央に広がるアルタイ語の仲間、という説が優勢です。藤堂明保教授(日本を代表する中国文学者で、昔の漢和辞典の多くは藤堂先生の名が入っていた)もこの説をとっているように思われます。
古アルタイ語に近いと言われる古トルコ語で、父はata。
このataの語頭aが取れ音の重複がありtata→tete→titiとなったのかも知れません。
なお、古トルコ語のataは、人類の文明が最初に花開いた中東などで、ほぼ共通の父を意味する言葉である、apa、ap、abからの変化でしょう。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の親であるアブラハム(人の父)の名前は知らなくても、アブラハム・リンカーンの名前はご存知なのではないでしょうか。
abやapの仲間としては、マジャール語(ハンガリーの言葉だが、アジア系言語に近い)やチベット語のapaやマレー語、イヌイト語(最近は差別的だという理由で使われないエスキモーの一言語)などに似たものがあります。
お隣韓国のapojiも、この流れをくむかも知れません。
また、abのaがとれて後ろが母音化すると、babaとなります。
実はトルコ語や中国語、あるいはネパールなどでbabaに近い音は父です。
つまり、ババアはお父さんなわけです。
なお、b音が軽いp音になったら……。
あとは言う必要もありませんよね。
ほぼ世界共通の『お父さん』を表す言葉になります。
実は、現代の英語やフランス語、ドイツ語から、マヤ語やケチュア語と呼ばれるインカ帝国、あるいは台湾高地民族から太平洋の真ん中にあるサモアの言葉まで、大まかな流れを推測することができます。
それでもまだ、『お母さん(ママ)』ほどは広範囲かつ明瞭な共通性ではありません。
お母さんの分布と変化は、ブログ記事だけでは説明できそうになく割愛します。