事実は小説よりも奇なり。
と言いますね。
しかし、中国『史記』にあるようなことって、本当にあるんでしょうか。
今から3000年くらい前に滅びた殷王朝最後の王は、紂王と言い『酒池肉林』などの故事にも出てくる、悪名高い人です。
この紂王を色仕掛けでたぶらかし、長い中国の歴史の中でも、一、二を争う悪王とした女性とされる妲己(だっき)には、まさに中国らしい話があります。
妲己の母は、隣の国にまで知られるほどの美人だったらしいのです。
その母を、後に殷を倒す周王ゆかりの者が目をつけ、まだ独身のうちから、彼女に娘が生まれたら引き取る約束をしていたらしいのです。
誰の嫁になるかも、また、娘が生まれるかどうかもわからぬうちから、その娘を予約とは、ずいぶん気の長い話です。
さて、思惑どおり娘が生まれると、秘密裏に周の手の者に引き取られました。
この娘が妲己です。
彼女は、生まれた時から紂王好みの女に仕立てられていき、周王側近の思惑どおり紂王を堕落させ、民の恨みを十分に熟成させ、反乱により倒れて、殷王朝は滅亡します。
いかにも中国らしい、気の長い話ですが、本当にこんなことがあったかどうかは分かりません。
ただ、こういう話が残っているということ自体、考えさせられるものがあります。
中国の歴史物語には『臥薪嘗胆』に代表される『恨み』や『復讐』を主題としたものが多く見られる気がします。
これに対して、日本神話の『古事記』などは、後世の権力者の下で、十分な取捨選択、表現の婉曲や合成を考慮に入れても、ほとんどそうした記述がありません。
不思議の国 ニッポンは、 神話にも言えることです。