
この年ですよ。
相手を見てから、尋ねてくださいな。
ほよっ?
なんだ、私だけに聞いているわけじゃないんですか。
それなら、気が楽だ。
とは言え、まあ、いまさら告白も、淡白もありませんわな。
ですから、真似したいシーンというのも、当然ありようがありません。
でもね、愛の告白とかじゃなければありますよ。
こんなだったら・・・っていう告白シーンがね。
いや、正しくは『告白のない告白』シーンていうやつなんですが。
映画や舞台じゃないんです。
小説の話ですな。
小松重夫っていう作家を知っていますか?
江戸時代あたりの人情物を得意とする作家なのですが、彼の作品の一つに『金貨百枚』というものがあります。
これは、『金貨、百枚』と読むのではなく、『金、貨百枚』と読みます。
その価値を金銭で計るなら、金貨百枚の値に相当する、という意味なわけです。
簡単にあらすじを書きますと、
武士は食わねど高ようじ、そのままの生活をおくる男がいた。
ある日、ささいな傷がもとで重病に陥る。
高名な医者しか治せないが、その代金がべらぼうだ。
結局、医者は代金代わりに、男が極貧の生活でも最後まで手放さなかった、家宝の“ご先祖様が殿様から拝領”したという、『金貨百枚』なる名刀を持っていってしまう。
名医の治療のかいあって、男は無事命をとりとめた。
何日かたったある日、男は『金貨百枚』の名刀が、刀剣屋で二束三文の扱いを受けているのを目にし、愕然とする。
『金貨百枚』は、実はがらくたで、刀の目利きも玄人の医者は、がらくた承知で治療費としたのだった。
男は涙に、一寸先も見えない。
あとがきで、映画監督が書いているが、このシーンは、映像で表現することは難しい。
私は、このシーンを思い浮かべると、これを書き込みしている今も、熱いものがこみあげてくる。