秋が終わり、冬が来た。
「最仁様が女子にナニしたそうな」
「バカ言ってんじゃねえ。法師様がそんなことするわけねえべ。バチあたりなこと言っちゃなんねえ」
「いや、ほんでも、都瑠香っう女子は、滅法気が悪くなりそうな(注・魅力的で色っぼく、邪心を起こしかねない)体してるっうじゃねえけ」
「あほんだら。滅多なこと言っちゃなんねえつうの、わがんねが」
話題の少ない閑村では、いまだに都瑠香と最仁の話が、あちらでポツリ、こちらでポツリ、時に口に唾しながら、時に声をひそめつつ話されている。
円林寺の除夜の鐘が鳴るのを聞きながら、ある者は百八の煩悩を一層顕にするのだった。
正月があけるとどんど焼きだ。
この村あたりでは、ソバ祭りとかサバ祭りと呼んでいる。
老若男女を問わず、大焚き火の周りに集い、歌い飲み交わし、無病息災、家内安全を願うのだ。
「都瑠香っう女が来っかもしんねえど。なんか知らねえけど、サバさん時は、傀儡どもも谷から降りて来て、猿回しやったり、けったいな身なりで踊ったりするからな」
「都瑠香つうんは、そげにええ女子かいな」
「ああ、おらは子どもん時しか見てねえが、まあ、そん時から色っぺがったな。とにかく、目ん玉が翡翠みてえに青くってな・・・」
「へえ、そげな目した女子がおるんかい」
村人たちは、相変わらず都瑠香の話に興じている。
が、
その頃、当の本人は、どんど焼きの火を遠くに見ながら、円林寺奥の院へ足を進ませていた。