芝神の都瑠香 13 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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秋が終わり、冬が来た。


「最仁様が女子にナニしたそうな」
「バカ言ってんじゃねえ。法師様がそんなことするわけねえべ。バチあたりなこと言っちゃなんねえ」


「いや、ほんでも、都瑠香っう女子は、滅法気が悪くなりそうな(注・魅力的で色っぼく、邪心を起こしかねない)体してるっうじゃねえけ」

「あほんだら。滅多なこと言っちゃなんねえつうの、わがんねが」


話題の少ない閑村では、いまだに都瑠香と最仁の話が、あちらでポツリ、こちらでポツリ、時に口に唾しながら、時に声をひそめつつ話されている。



円林寺の除夜の鐘が鳴るのを聞きながら、ある者は百八の煩悩を一層顕にするのだった。


正月があけるとどんど焼きだ。

この村あたりでは、ソバ祭りとかサバ祭りと呼んでいる。


老若男女を問わず、大焚き火の周りに集い、歌い飲み交わし、無病息災、家内安全を願うのだ。


「都瑠香っう女が来っかもしんねえど。なんか知らねえけど、サバさん時は、傀儡どもも谷から降りて来て、猿回しやったり、けったいな身なりで踊ったりするからな」


「都瑠香つうんは、そげにええ女子かいな」


「ああ、おらは子どもん時しか見てねえが、まあ、そん時から色っぺがったな。とにかく、目ん玉が翡翠みてえに青くってな・・・」


「へえ、そげな目した女子がおるんかい」


村人たちは、相変わらず都瑠香の話に興じている。



が、





その頃、当の本人は、どんど焼きの火を遠くに見ながら、円林寺奥の院へ足を進ませていた。