芝神の都瑠香 11 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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「こっ、これは最仁さまではありませぬか・・・」


頭の顔から血の気が引き、苦虫を噛み潰したような表情となる。


「ううっ、このたわけ者が」

頭が赤鬼の顔に戻り、

「この方が、法外なことなどするわけがなかろう。たわけ者」

怒号と共に、若衆頭へ鉄拳が飛ぶ。

大男は、肩を怒らせて、見えぬ相手に呼びかける。


「都瑠香っ、どこにおる。都瑠香~」

返事はなく、こだまばかりが谷に響いている。


「都瑠香っ~」


男は、もう一度声をはりあげた。


こだまが、むなしく沢の闇に吸い取られていく。



その沢音は、夕暮れの静寂を、一層際立たせるのだった。