少女が繰り返した。
「???」
喉に入りかけた肉片が、また戻りそうになる。
この子は大丈夫なのだろうか。
私の口元がぎこちなく動き、作り笑いしようとする意に反して、自分の視線が硬くなるのを感じ少女から目をそらした。

少女が続ける。
「あのね、ずっとじゃなくっていいのよ。ここにいる時だけ。クルンテープにいる時だけでいいの」
クーラーの調子がよくないようだ。
背中にじんわり汗がしみ出てきた。
日本では高校生相手に、援交なるものがあるときく。
ここタイでは、裕福な男が複数の愛人をもつことは、正妻の嫉妬を除いて、称賛されることはあっても、表立って批判されることは稀だ。
というのは、裕福な者が貧者の生活を支えることになるからである。
もっとも、こんなことを日本で話したなら、理想論で平等とか平和とかを唱える人たちから、大変な攻撃を受けるであろうが・・・・・・。
しかし、いくら何でもねえ、と誰ともなく苦笑いした。
「ね、見て!これが私のママ。きれいでしょう。ママはおじさんみたいな人、好みなのよ。わたしにはわかるの。それと、わたしもおじさんみたいな人、好き」
はっ!なんだ、そういうことか。パパさんじゃなくて、この子は父親であるパパのことを言っているのか。
私は自分の早とちりに心の中で笑い、かなりの余裕を持って、少女の差し出した黄ばんだ写真に目をやった。

うん!
写真を覗いた私は、しばらくその中にいる女性に固まった。
細面に憂いを含んだまなざし。
栗色がかった髪の毛を透かして、形容しようのない色気がただよっている。
「きれいなママだね」
平静を装って答えた私の声は、多分に上ずっていたことだろう。
「でしょう。ね、だから、おじさん。パパになって」
少女は、さっきと同じ言葉を繰り返した。