クルンテープ(天使の住む都) 6 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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「ねえ、わたしのパパになってくれる?」

少女が繰り返した。

「???」

喉に入りかけた肉片が、また戻りそうになる。


この子は大丈夫なのだろうか。

私の口元がぎこちなく動き、作り笑いしようとする意に反して、自分の視線が硬くなるのを感じ少女から目をそらした。







少女が続ける。

「あのね、ずっとじゃなくっていいのよ。ここにいる時だけ。クルンテープにいる時だけでいいの」


クーラーの調子がよくないようだ。
背中にじんわり汗がしみ出てきた。

日本では高校生相手に、援交なるものがあるときく。
ここタイでは、裕福な男が複数の愛人をもつことは、正妻の嫉妬を除いて、称賛されることはあっても、表立って批判されることは稀だ。
というのは、裕福な者が貧者の生活を支えることになるからである。


もっとも、こんなことを日本で話したなら、理想論で平等とか平和とかを唱える人たちから、大変な攻撃を受けるであろうが・・・・・・。




しかし、いくら何でもねえ、と誰ともなく苦笑いした。


「ね、見て!これが私のママ。きれいでしょう。ママはおじさんみたいな人、好みなのよ。わたしにはわかるの。それと、わたしもおじさんみたいな人、好き」


はっ!なんだ、そういうことか。パパさんじゃなくて、この子は父親であるパパのことを言っているのか。

私は自分の早とちりに心の中で笑い、かなりの余裕を持って、少女の差し出した黄ばんだ写真に目をやった。




うん!

写真を覗いた私は、しばらくその中にいる女性に固まった。

細面に憂いを含んだまなざし。
栗色がかった髪の毛を透かして、形容しようのない色気がただよっている。


「きれいなママだね」



平静を装って答えた私の声は、多分に上ずっていたことだろう。


「でしょう。ね、だから、おじさん。パパになって」

少女は、さっきと同じ言葉を繰り返した。