不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その92

 本日も、製造業者・販売業者の関係にあった当事者の紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号28090983)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京地判平16・3・11〔アザレ化粧品事件Ⅰ・第一審〕平成13(ワ)21187

原告 株式会社アザレインターナショナル
原告補助参加人 B
原告補助参加人 C
被告 アザレ東京株式会社
被告 アザレアゼット株式会社
被告 アザレウイング有限会社
被告 アザレ武蔵野株式会社
被告 G
被告 アザレプロダクツ株式会社
被告 共和化粧品工業株式会社

 

■事案の概要等 

 本件は、原告が、被告らの製造販売する化粧品等に付された本件各表示は、原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているとして、被告らに対し、不正競争防止法2条1項1号、3条及び4条に基づき、右行為の差止等を求めた事案です。

 なお、本件の控訴審(東京地判平成16(ネ)2000同17・3・16判決については、別途取り上げます。第一審と控訴審とでは判断が分かれた事例です。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字・着色筆者)

Ⅰ.判断の前提となる事実関係
(1)アザレ化粧品の販売までの経緯
ア)Iは、従前「ポーラ化粧品をやめて,Aの夫であったK,L,Mと共に「ヴァロー化粧品」を創業」。Iは「ヴァロー化粧品」の専務取締役となり,Aも同社に勤務していたが,経営方針をめぐってIと代表者のMとの間に対立が生じたため,Iは福岡に事務所を新設して「ヴァロー化粧品」を販売」し、夫のKを交通事故で亡くしたAも従って福岡に移り、Iの事業に従事。
イ)「「ヴァロー」という商標の使用について問題が生じるなどし」、昭和45年ころIはジュポン社を設立し,「ルールジュポン」という商標の商標権を取得して,化粧品の製造販売を行」い、「代表者はIで」、「Aも常務取締役」。
ウ)「ジュポン社設立当時,大手化粧品メーカーの化粧品公害が問題とな」り、「「肌に負担をかけない」「自然派化粧品」を謳い文句に水溶性ファンデーションを開発し,「エレガンスカラー」と名付けて販売を開始」し、当初、「ジュポン化粧品」の製造は、他社に製造委託などしていたが、同社が「ジュポン社の関知しないところで」、「ジュポン化粧品」と同一仕様の製品製造による直接販売店への出荷が判明し契約解除。「化粧品の委託製造を専門に行っていた被告共和化粧品との間で,新たに化粧品の製造委託を内容とする契約を締結」。「契約書は「製造請負契約書」と題するもの」であった。(概要省略)
オ)「「エレガンスカラー」の販売が好調で」、「ジュポン社の売上は伸びていたが…商標が」、米国の「デュポン社の名称と類似」し紛争となり,「Iは「ジュポン化粧品」の事業」等を「取締役のLに譲り,Aとともに福岡に戻った」。
(2)アザレ化粧品の創業及び本件各表示の使用の開始
ア)「事業から手を引いたIに対し…Nをはじめとするジュポン社の取引先やHから再び化粧品業界に戻るように強い要請があ」り、「Iは,ジュポン社の時代に引き続き,「自然派化粧品」の理念のもとに,再び化粧品事業を始め」た。「Iは2度にわたって商標の問題で失敗をした経験から,問題を生じないような商標にしたいと考え,Aが考案した「アザレ」を…使うこととし」、本件各表示につき商標登録出願をし,I名義で商標権の設定登録を受けた」。
イ)「昭和52年10月中旬ころ,I及びAは,両名の考案に係る「アザレインターナショナル」の商号の下でアザレ化粧品の販売を開始」。「アザレ化粧品の販売が始められた当初は,代表者をAとする個人企業として営業活動が行われたが,その後…有限会社アザレインターナショナルが設立され,代表取締役にA,取締役としてRとHが就任」。しかし「Hは名目的に取締役に就任したにすぎず,会社の経営に関して発言をするなどのことはなく,実質的な経営はIとAとが行っていた」。「その後,有限会社アザレインターナショナルの業績も次第に上が」り,「同社はいったん解散した上で,昭和57年1月に資本金1000万円で原告が設立され,販売を行うようになった。設立当時の持ち株比率はIの意向により,A50%,I14%,H10%などとされ,代表取締役にはA,取締役にH及びIが就任」。
ウ)「I及びAは,昭和52年10月にアザレ化粧品の販売を開始した時から,本件各表示を化粧品に付して使用し,有限会社アザレインターナショナル及び原告も,各設立時から本件各表示を化粧品に付して使用」。
エ)「アザレ化粧品の製造は,ジュポン時代に引き続いて被告共和化粧品が行い,個人営業の時代の「アザレインターナショナル」と被告共和化粧品の間で製品取引契約が締結され,原告が設立された後の昭和57年1月,改めて,原告と被告共和化粧品との間でアザレ化粧品の製造委託を内容とする契約が締結された」。「製品取引契約書」と題した。(概要省略)
オ)「I及びAが「アザレインターナショナル」を創業した後,最初に商品として発売したのが,「アザレグレイスカラー」という水溶性ファンデーションで」、「ジュポン時代のヒット商品である「ジュポンエレガンスカラー」のノウハウを生かし,A自身がモニターとなるなどして改良を重ねた」。「その後,被告共和化粧品からの提案等により新商品も開発,販売され,原告が設立された昭和57年1月ころには,20種類以上の商品がアザレ化粧品として販売されるようになった」。
(3)アザレ化粧品の販売網の形成
 「I及びAは,個人営業の時代から,「本舗」と呼ばれる販売指定店を設け,本舗のアドバイザーと称する販売員が顧客を訪問して化粧品の使用方法等を紹介・指導し,販売するという訪問販売方式によってのみ…販売するという流通方法をとった」。各本舗は,それぞれ販売活動のできる地域が厳格に定められ(原則として都道府県毎に1本舗),アザレ化粧品以外の商品の販売を禁止された専属的な販売店であった。この本舗の開拓は,Iが,HやAを同行させて行い,原告が設立されたころには50以上の本舗が開設されるに至っていた」。

「原告と本舗との間には販売指定店契約が締結されたが,これらの契約書上には…記名(署名)押印のほか,「契約立会人」として被告共和化粧品及びIの記名(署名)押印がある」。「昭和57年ころのものには,同じく「契約立会人」として,被告共和化粧品のほかO弁護士あるいはP弁護士の記名押印がある」。
(4)被告アザレプロダクツの設立
ア)「被告共和化粧品は,原告と製造契約を締結した後も,アザレ化粧品以外の化粧品の製造も行」い、「アザレ化粧品が徐々に消費者に受け入れられ,知名度が上がってきたことから…Iの意向もあり,完全にアザレ化粧品専門の製造会社を設けることとし」、「昭和60年7月に被告アザレプロダクツが設立され,Hが代表取締役に就任した」。
イ)「被告アザレプロダクツは…対外的にアザレ化粧品専用の製造工場を有していることを明らかにする目的で設立され」、「従前の被告共和化粧品の設備,人員をいわば流用する形で名目的に独立の法人とし」、「被告アザレプロダクツの工場設備はそのほとんどが共和化粧品の所有であり,アザレ化粧品の製造作業も被告共和化粧品の従業員が行っている」。
ウ)「被告アザレプロダクツの設立後…原告と被告アザレプロダクツとの間で,それまでの製造委託契約に代えて新たに契約を締結」。「委託製造取引契約書」と題した。(概要省略)
(5)アザレ化粧品の売上及び広告宣伝等
ア)「原告の設立以降の売上の推移は…原告が設立された昭和57年度に既に売上高は6億7628万0760円にのぼっていたが,それが昭和59年には,12億2526万6090円になり,その後も…概ね順調に売上を伸ばし,平成8年度の売上高は71億円超を記録」。
イ)「原告と被告アザレプロダクツとの契約関係存続中に販売されたアザレ化粧品の外箱や化粧瓶には,本件各表示が付され,その外箱あるいは瓶底のシール等には,「発売元」として原告が記載され,薬事法に基づき,「製造元」として被告アザレプロダクツが記載」。
ウ)「アザレ化粧品用のパンフレットやチラシは,ほとんど原告が作成し,原告の名前が出所として記載され」、「各地の本舗においても,商品の紹介や化粧品の使用方法が記載されたパンフレットや紙芝居などを作成することはあったが,主に各本舗に属する販売員向け…で、…直接顧客に配布することは想定されていな」かった。
エ)「アザレ化粧品の新聞広告は,平成8年以降,朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,産経新聞に年間120回,半2段(縦約7cm×横約19cm)の大きさで掲載され,その文面には,いずれも原告のみが広告主として記載されていた。もっとも,この広告内容は,「アザレ化粧品から訪問・直接対面販売のお知らせ」と題され…商品の紹介を内容と」しない。雑誌広告等もあり「新聞及び雑誌広告のための支出額は,平成8年度で約3089万円,平成9年度で約5532万円,平成10年度で約7648万円」。
オ)「各種ファッション雑誌での化粧品の記事には,他の化粧品と並んでアザレ化粧品が取り上げられることがあったが,そこでは,概ねアザレ化粧品は,植物性の自然派化粧品として紹介されており,出所が表示されるときには,原告が記載」。
カ)「原告は,毎月「アザレリポート」を販売店向けに発行して,各種の連絡や販売方法の指導を行っていたほか,昭和56年以降「販売店コンクール」等を開催して販売店及び販売員の意欲を高める努力をし」、「各販売店でも独自に販売員向けの資料を作成したり,販売員の研修を行ったりした」。また「原告は,各本舗用に,多数の販売促進品を製造し,配布」。
キ) 原告は,契約をしていない訴外会社のアザレ化粧品の販売を知り、「刑事告発し,同社に製品を横流しした静岡本舗との間の販売指定店契約を解除するなど,アザレ化粧品の販売網の維持管理を積極的に行った」。
ク)「原告は,上記のような販売及び広告宣伝のために…広告宣伝費,販売促進費を支出」。
(6)アザレ化粧品の製品開発等
ア)化粧瓶及び外箱について
 「アザレ化粧品の化粧瓶及び外箱については原告が被告アザレプロダクツに供給することとされ」、「各種化粧瓶の意匠については,Iを創作者として意匠登録出願がされ,原告が意匠権を取得」。
イ)原告の研究体制等について
 「原告は,福岡県糟屋郡新宮町に研究所を有し…社団法人福岡県製薬工業協会の正会員であり,平成10年には化粧品製造業許可を,平成12年には医薬部外品製造業許可を…受けている。原告の研究所には,化粧品の製造設備が設けられているほか薬剤師が配置され,アザレ化粧品の成分や効能に関する質問が本舗から寄せられたときに,その質問に答えたり…原因を究明する業務を行ったり,クリームや化粧水についての新しい処方を考え,サンプルを作るなどし」た。「原告では,平成8年ころからPL法相談室を設け…苦情や相談に応じ」た。
ウ)製品化について
 「アザレ化粧品を製品化するに当たっては,原告あるいはIが製品のおおよそのイメージを被告アザレプロダクツに提示し,被告共和化粧品の設備を用いて製品化の研究や分析が行われ,その結果を踏まえて被告アザレプロダクツから原告に対して具体的な製品についての提案がなされ,それを原告が検討して採用するという手順を経て行われることが多かった。ただし,実際の製品の製造原価に占める被告アザレプロダクツの割合は3分の1程度であった」。
(7)本件各表示についての商標権
ア)「本件各表示については,Iを商標権者とする商標登録出願がなされ,いずれも商標権の設定登録がなされたが,Iは,商標権設定登録後直ちに,原告に対して本件各商標につき独占的通常使用権を設定し,原告に本件各表示を使用させ始めた」。
イ)「その後,Iはワンダフルを設立し…同社に対して本件各商標を再許諾権付きで使用許諾し」、「ワンダフルは原告との間で原告による商標の使用を許諾することを内容」とする「本件商標使用許諾契約」を締結。(概要省略)
ウ)その後,ワンダフルから本件商標使用許諾契約の改訂の申入れがあり,…実績金額に関係なく小売金額の2%が原告からワンダフルに支払われることとされ,…ワンダフルが独自の活動に資金を使用することができることを原告が認め」た。「本件商標使用許諾契約に基づき,原告からワンダフルに対して…商標使用料が支払われた。ワンダフルは,本件各商標に関し,原告との間で商標使用契約を締結したのみで,他の者との間で商標使用許諾契約を締結することはなかった」。
エ)「Iは,死亡に際して全財産を妻である被告Gに相続させる旨の遺言を残し」、「本件各商標権は,いったんは相続により被告Gに帰属した」が、「被告Gは…本件各商標権につき相続を原因とする移転登録を了し,さらに有限会社ワンダフルの代表者に就任した」が、AとH及び被告Gの対立が生じたため,ワンダフルは,原告に対し…本件各商標の使用許諾契約を書面到達後6か月の経過をもって解約する旨通知し」、その後「「解約通知書」と題する書面により,同契約を即時解除する旨を通知」。
 しかしながら,上記解約通知に先立ち,補助参加人らは,被告Gに対する本件各商標権の遺贈を対象として遺留分減殺請求権を行使などした。その後、「補助参加人らと被告Gの間の本案訴訟」では、「被告Gから主張された遺留分減殺請求権行使に対する価額賠償の抗弁が認められ,被告Gが補助参加人らに一人当たり約2億6000万円を支払」い、「本件各商標権等を完全に保有できることとされたが,同判決に対しては控訴がされ,現在控訴審が係属中である」。


(8)紛争の経緯
ア)「Iは,平成9年11月4日に死亡し,妻である被告Gと子である補助参加人らが相続した。Iの死後,H,東京本舗(アザレコーポレーション)のS…,佐賀本舗のT…,被告Gは,A及びNらと対立」。「その後,被告アザレプロダクツは,平成11年11月4日付けの催告書を原告に送付し,原告の姿勢にはアザレ化粧品の理念に反する」などとし、…「被告アザレプロダクツは…同契約を解約することを申入れ,原告も…解約に同意したため,両者の契約は同月5日限りで合意解約された」。
イ)上記解約後「原告は,日本コルマー株式会社を新たな製造元として,アザレ化粧品の販売を開始」。他方「被告アザレプロダクツも,独自に被告製品の製造販売を開始」。「約18の本舗が原告との間の販売指定店契約の解約の意思表示を行い,被告製品の取扱いを開始」。「被告アザレ東京,同アザレアゼット,同アザレウイング及び同アザレ武蔵野は,被告製品を販売している」。なお「被告製品及びその包装の外観の色彩や瓶の形状は原告製品とは若干異なっている」が、「本件各表示と同一の表示が付されている」。


Ⅱ.争点(1)(本件各表示は原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているか)
 裁判所は、認定事実説示にかかる各事実を総合し以下のように認定し判断しました。
(1)判断基準

 「不正競争防止法2条1項1号の規定は,他人の周知な表示と同一又は類似する表示を使用して需要者を混同させることにより,当該表示に化体した他人の信用にただのりして顧客を獲得する行為を,不正競争行為として禁止し,もって公正な競業秩序の維持,形成を図ろうとするものである。そうすると,同号の規定によって保護される「他人」とは,自らの判断と責任において主体的に,当該表示の付された商品を市場における流通に置き,あるいは営業行為を行うなどの活動を通じて,需要者の間において,当該表示に化体された信用の主体として認識される者が,これに当たるものと解するのが相当である」。

 

(2)本件に関する判断
 「原告(原告設立に先立つ個人企業としてのアザレインターナショナル,有限会社アザレインターナショナルを含む。…)と被告アザレプロダクツ(被告アザレプロダクツ設立前は被告共和化粧品。…)及び各本舗間の契約関係において」、

まず、原告と被告アザレプロダクツの間の契約は「本件各表示の付された容器等は原告の負担により製作されて被告に供給され,被告アザレプロダクツは,原告の発注に基づき原告から供給された化粧瓶・外箱に内容物を詰めてこれを原告の指定する販売店に納入するもので,商品を第三者に販売してはならないとされ」、「またアザレ化粧品の容器等や広告には発売元として原告の名称が常に記載されていたこと」に照らし、「原告と被告アザレプロダクツの間の契約は,原告が自己のブランドを付して販売する化粧品類について,被告アザレプロダクツがその内容物を製造し供給するいわゆるOEM契約と認められる」。

また「原告と各本舗の間の契約」は、「各本舗は,原告を通じて本件各表示の付された商品を入手し,原告の指定する商品を原告の指定する販売方法で販売することのみが認められ」、「原告と各本舗の間の契約はいわゆる販売代理店契約」と認められる。
 「このような契約関係の下においてはアザレ化粧品に関して,原告が,本件各表示の付された化粧品容器等を管理し,その流通についても,原告が,その製造量を決定して,各本舗を通じての販売を管理していたものであり本件各表示の付された化粧品容器や広告には発売元として常に原告が表示されていた」から、「自らの判断と責任において本件各表示の付された商品を市場における流通に置き,消費者の間において本件各表示に化体された信用の主体として認識され得る立場にあったのは、原告だけであった」と認められる。
 「これに対して被告アザレプロダクツ及び各本舗は,原告との契約関係に基づき,原告が自己のブランドを付して販売する化粧品の製造,流通に関与する限度で,本件各表示を使用していたにすぎないものであり,そもそも独自に商品等表示の主体になり得る立場にはなかった」。


 そして、裁判所は周知性について以下のように判断しました。

 「本件各表示は昭和52年10月ころからアザレ化粧品に使用されていること,原告が株式会社になった昭和57年1月ころには主力商品を含む20種類以上の商品がアザレ化粧品として販売されるようになり,ほぼ全国を網羅する50以上の本舗が設けられていたこと,昭和57年の原告の売上高は既に6億7600万円余りに達していたことが認められる。加えて,原告は,顧客向けのパンフレットやチラシの製作,販促品の配布,新聞や雑誌の広告等の広告宣伝を自ら行い,アザレ化粧品の広告における発売元としては必ず原告が表示されていたものである。これらの点に照らせば,本件各表示は,原告の商品及び営業の出所を示す表示として遅くとも原告が株式会社に組織変更をした昭和57年1月ころまでには,原告の出所に係る商品ないし原告の営業を示すものとして,需要者の間に広く認識され,現在に至るまでその状態を維持しているものと認めるのが相当である。
 

(3)「被告らは,アザレ化粧品の創業及びその後の事業の拡大は,もっぱらI1人の手によるもので」、「A及び原告の貢献はほとんどなかった」とし、「アザレ化粧品の製造・販売に関しては,Iの強い指導力の下で,「アザレグループ」と呼ばれる一体としてのグループが形成され,その中で,被告アザレプロダクツはアザレ化粧品を製造する役割を担い,各本舗はアザレ化粧品を顧客に販売する役割を担うという役割分担となっていたのであって,需要者の間においても「アザレグループ」として出所が認識され」、「一体としての「アザレグループ」が商品等表示主体になると」主張し、「単にIから「発売元として表示される役割」を与えられていたにすぎない原告だけを商品等表示の主体と解することは実態に反するとし,本件においては,原告と被告らの間で,互いに商品等表示につき「他人」と主張することはできないと主張」したのに対し、裁判所は、以下のように判断しました。
 「アザレ化粧品はIの卓抜したアイディアがなければ生み出されることはなかったであろうし,創業後アザレ化粧品が名声を博するに至ったのも,Iの才能によるところが大き」く、「Iの存命中においては,原告,被告アザレプロダクツ及び各本舗は,Iの強い指導力の下で,Iの定めた方針に従って業務を行っていた」と認められるが、他方「アザレインターナショナルは当初Aの個人企業として始めら」、「有限会社になり,原告が設立されてもなおAが代表者の地位にあ」り、「創業時からAはIと行動を共にし,「アザレ」の商号を考案し,自ら商品を顧客に紹介したり,営業を行うこともあ」り、「I自身,講演を行う際に「株式会社アザレインターナショナルI」との肩書きで講演を行」った事実も認められ、アザレ化粧品の創業で「Aも一定の役割を果たし」、「原告及びその前身の有限会社は,Iの意向を受けつつも事業の拡大に主体的に取り組」み、「I自身,自己の所属を原告と表示するなどし」、「原告を離れた事業活動を行っていたわけではない」とし、加えて「Iがワンダフルを介して原告のみに対して本件各商標の使用を許諾し」、「原告と被告アザレプロダクツないし各本舗の間の契約の内容等に照らせば,アザレ化粧品に関連する業務の遂行においてIの果たす役割が…大きなもので」も、「商品等表示の主体を原告と認定することができる」。
 なお「原告による新聞広告,雑誌広告は長期間にわたり継続的に行われていることに加え,消費者向けのパンフレットも原告において作成し」、「アザレ化粧品が販売員による訪問販売による販売のみを行っているものであるにしても,原告による広告宣伝活動が本件各表示が周知性を獲得するに際して,少なからぬ役割を果たした」と認めました。

 
Ⅲ.争点(2)(Iから被告Gを除く被告らに対する本件各商標使用の許諾があったか)
 裁判所は、「無償での商標使用の許諾」があったとの主張を認めませんでした。(以下省略)


Ⅳ.争点(3)(被告Gによる商標の自己使用として被告らの行為が許されるか)
 裁判所は、「被告Gが自らの業務として,被告製品の製造・販売を行っている事実を認め」らえないと判断しました。「被告Gの事務所では,各本舗から送付されてくる発注書をそのまま被告アザレプロダクツに転送するという処理をしているにすぎないこと,商品のクレーム対策や品質の管理はすべてアザレプロダクツが行っていること,被告Gの事務所には被告Gのほかに従業員が2名稼働しているのみであるといった事実が認められ,また,被告らは本件訴訟において,一方においては被告プロダクツはIから本件各商標の使用許諾を受けて主体的に被告製品の製造を行っているとの主張をしているものであり,このような各事情に照らせば,被告アザレプロダクツが被告GのOEM製造業者として被告製品の製造を行い,被告Gが自らの商品としてこれを販売し,各本舗が被告Gの販売代理店として被告製品を販売しているという被告らの主張は」採用できないとしました。


Ⅴ.争点(4)(被告らの商品表示が本件各表示と混同を生じさせるものか)
 裁判所は、以下のように認定し判断しました。

 「被告製品に本件各表示と同一の表示が付され」、「原告は,自己の販売する原告製品に本件各表示を付してこれを販売しているものであり,原告製品と被告製品が同一種類の分野に属する化粧品であって,需要者を共通にするものであることからすれば,需要者の間に商品の出所につき混同を生じさせることは,明らかである」。

 「被告アザレ東京,同アザレアゼット,同アザレウイング,同アザレ武蔵野及び同アザレプロダクツが,それぞれ「アザレ東京」,「アザレアゼット」,「アザレウイング」,「アザレ武蔵野」及び「アザレプロダクツ」なる商号を使用していることは当事者間に争いないところ,これらの商号にはいずれも,原告の周知の営業表示である本件表示2,3と同一ないし類似の「アザレ」の表示がその要部として含まれているものであるから,上記の被告らが上記各商号を使用することは,需要者を始め,これをみる者に,原告とこれらの被告らが同一の資本関係ないしグループ関係にあるかのような誤認を生じさせる」。
 なお「被告らは,原告が製造販売しているアザレ化粧品(原告製品)と被告製品との区別はすべての顧客及び販売店,販売員が明確に識別していることであるし,販売網についても,販売員のレベルに至るまで原告のグループに属する者か被告Gのグループに属する者かがはっきりと分かれ」、「同一の商品等表示を使用しているからといって,商品の出所や営業主体を混同するおそれはないと主張する。しかしながら,すべての需要者が被告らが主張するような明確な認識を有しているとは認められ」ず、「被告らの上記主張を採用」できない。


Ⅵ.被告らによる不正競争行為のまとめ
 「本件各表示は原告の商品等表示として周知性を有するものであるところ,被告アザレプロダクツが製造販売し,被告アザレ東京,同アザレアゼット,同アザレウイング及び同アザレ武蔵野が販売する被告製品に付された本件各表示と同一の表示は,原告の商品と混同を生じさせる」。「「アザレ東京株式会社」,「アザレアゼット株式会社」,「アザレウイング株式会社」,「アザレ武蔵野株式会社」及び「アザレプロダクツ株式会社」の各商号は,本件表示2,3と同一ないし類似の表示を要部として含むものであり,原告の営業と混同を生じさせる」。「被告らには本件各表示について,原告に対抗しうる正当な使用権原があるとは認められない」。
 「したがって,被告アザレプロダクツが本件各表示の付された被告製品を販売する行為,被告アザレ東京,同アザレアゼット,同アザレウイング及び同アザレ武蔵野が本件各表示の付された被告製品を販売する行為並びに被告アザレ東京,同アザレアゼット,同アザレウイング,同アザレ武蔵野及び同アザレプロダクツが,それぞれ,「アザレ東京株式会社」,「アザレアゼット株式会社」,「アザレウイング株式会社」,「アザレ武蔵野株式会社」及び「アザレプロダクツ株式会社」なる商号を使用することは,いずれも不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当する」。


Ⅶ.差止請求について
(1)販売行為等の差止め請求について
 「被告アザレプロダクツが本件各表示の付された被告製品を製造販売する行為,被告アザレ東京,同アザレアゼット,同アザレウイング及び同アザレ武蔵野…これらの被告らに対して,本件各表示の付された被告製品の販売(被告アザレプロダクツに対しては製造販売)の差止め及びその廃棄を求める原告の請求は理由がある」。
 また「被告共和化粧品は,被告アザレプロダクツと意思を共同して,同被告の被告製品の製造販売に際して,自己の製造設備を貸与し,自己の従業員をこれに従事させるなどして,実質的には被告製品を製造販売していたものであるから,被告共和化粧品は,今後自ら被告製品を製造販売して,原告の営業上の利益を侵害するおそれがある」。「被告共和化粧品に対して,本件各表示と同一の表示を使用した化粧品,石けん類又は香料類の製造販売行為の差止めを求める原告の請求は理由がある」。「もっとも,被告共和化粧品は,被告製品の製造販売に関して上記の限度で関与するものであって,現在,実際に被告製品の製造販売を行っているのは,別法人である被告アザレプロダクツであるから,被告共和化粧品に対する被告製品の廃棄請求は,理由がない」。
 他方「被告Gについては…本件各商標権の共有者として自ら本件各商標の使用を行っているかのような外観を作出するために,外観上取次行為を行っているにすぎないから,今後自ら不正競争行為を行って原告の営業上の利益を侵害するおそれがあるとは認められない」。「被告Gに対する販売行為等の差止請求及び被告製品の廃棄請求は,いずれも理由がない」。


(2)商号の抹消登記手続請求について
 「本件各表示は遅くとも原告が設立された昭和57年1月ころには原告の商品表示・営業表示として周知性を獲得したものと認められるところ,「アザレ東京株式会社」,「アザレアゼット株式会社」,「アザレウイング株式会社」,「アザレ武蔵野株式会社」及び「アザレプロダクツ株式会社」の商号はいずれもこれに後れて登記され,使用が開始されたものである」。「被告アザレ東京,同アザレアゼット,同アザレウイング,同アザレ武蔵野及び同アザレプロダクツがこれらの商号を使用することは,不正競争行為に該当するものであるから,これらの被告らに対して「アザレ」を含む上記各商号の抹消登記手続を求める原告の請求はいずれも理由がある」。


Ⅷ.争点(5)(原告の損害)
(省略)

■結論
 裁判所は「原告の被告らに対する請求は,被告Gを除くその余の被告らに対して,上記の各請求を行う限度で理由がある(被告Gに対する請求及び被告被告アザレプロダクツ及び同共和化粧品に対するその余の請求は理由がない。)」などと判断しました。

 

■BLM感想等 

 本件において、裁判所は、「不正競争防止法2条1項1号の規定は,他人の周知な表示と同一又は類似する表示を使用して需要者を混同させることにより,当該表示に化体した他人の信用にただのりして顧客を獲得する行為を,不正競争行為として禁止し,もって公正な競業秩序の維持,形成を図ろうとするものである。そうすると,同号の規定によって保護される「他人」とは,自らの判断と責任において主体的に,当該表示の付された商品を市場における流通に置き,あるいは営業行為を行うなどの活動を通じて,需要者の間において,当該表示に化体された信用の主体として認識される者が,これに当たる」と判断基準を示し、本件について、「原告(原告設立に先立つ個人企業としてのアザレインターナショナル,有限会社アザレインターナショナルを含む。…)と被告アザレプロダクツ(被告アザレプロダクツ設立前は被告共和化粧品。…)及び各本舗間の契約関係において」、

まず、原告と被告アザレプロダクツの間の契約は「本件各表示の付された容器等は原告の負担により製作されて被告に供給され,被告アザレプロダクツは,原告の発注に基づき原告から供給された化粧瓶・外箱に内容物を詰めてこれを原告の指定する販売店に納入するもので,商品を第三者に販売してはならないとされ」、「またアザレ化粧品の容器等や広告には発売元として原告の名称が常に記載されていたこと」に照らし、原告と被告アザレプロダクツの間の契約は「OEM契約」と認めました。 「OEM契約」と認めた以上、これまでの裁判例によれば、商品等表示の主体は、製造委託業者、換言すれば、販売業者が商品等表示主体とされており、その流れと同様、本件では「自らの判断と責任において本件各表示の付された商品を市場における流通に置き,消費者の間において本件各表示に化体された信用の主体として認識され得る立場にあったのは、原告だけであった」と認めました。よってそれ以外の元関係者は、関係解消後は、従前の表示は使用できず、使用すれば原告による差止請求の対象となる、というのが本件裁判所の判断でした。

 なお、被告アザレプロダクツ及び各本舗は,原告との契約関係に基づき,原告が自己のブランドを付して販売する化粧品の製造,流通に関与する限度で,本件各表示を使用していたにすぎないものであり,そもそも独自に商品等表示の主体になり得る立場にはなかった」としています。これに対し控訴審では判断が変わるわけです。次回見ていきます。

 

By BLM

 

 

 

 

  (^u^)コーヒー ==========================

知的財産-技術、デザイン、ブランド-の“複合戦略”なら、

ビーエルエム弁理士事務所兼・今知的財産事務所BLM相談室

の弁理士BLMと、今知的財産事務所の弁理士KOIP

==============================コーヒー (^u^)

東急沿線の商標屋さん!ビーエルエム弁理士事務所

東急目黒線から三田線直通で御成門駅近くの今知的財産事務所