不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その96

 本日は、非営利組織・業界団体グループの紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号25569623 )より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  千葉地判令3・4・23〔千葉市調理師会事件〕平成29(ワ)177、平30(ワ)221

本訴原告兼反訴被告 一般社団法人千葉県調理師会(以下「Ⅹ1」という。)(代表者代表理事A)

本訴原告兼反訴被告 B(以下「Ⅹ2」という。)(以下、X1及びX2をまとめて「Xら」ともいう。)

本訴被告兼反訴原告 一般社団法人千葉市調理師会(以下「Y」という。)(代表者代表理事C)

 

■事案の概要等  

 本件本訴は、登録商標「千葉市調理師会(標準文字)」を有するⅩらが、Yの「千葉市調理師会」の標章を使用する行為等が1号の不正競争等(一部行為は商標権侵害)に該当すると主張し、Yに対し当該標章の使用の差止等求めた事案です。

 本件反訴は、被告が、ⅰ)X1の理事X2が、不当な目的で本件商標登録を受け本訴提起等した行為、ⅱ)Xが、そのウェブサイトにYの社会的信用を低下させる記事を掲出等した行為が共同不法行為に該当するなどと主張した事案です。

◆当事者間に争いのない事実等 

 本訴は、登録商標「千葉市調理師会(標準文字)」を有するⅩらが、Yの「千葉市調理師会」の標章を使用する行為等が1号の不正競争等(一部行為は商標権侵害)に該当すると主張し、Yに対し当該標章の使用の差止等求め、反訴は、被告が、ⅰ)X1の理事X2が、不当な目的で本件商標登録を受け本訴提起等した行為、ⅱ)Xが、そのウェブサイトにYの社会的信用を低下させる記事を掲出等した行為が共同不法行為に該当するなどと主張した事案です。

 紛争に至る主な経緯は次のとおりです。

 昭和40年から任意団体として活動していた千葉市調理師会が、後に設立のX1に参加し、独自の活動に加え、X1の千葉支部としても活動するようになったが、同会会長C(現Yの代表理事)は、X1から独立する総会の議案の承認を経て、X1に退会届を提出しました。直後、撤回届を提出するも、Ⅹ1はその退会届を受理しました。

 一方、X2を代表とする退会の意志がない者らは残留し、X1は、X2を代表とする団体を、議案の承認を経て、X1千葉支部としました(以下、X2を支部長とする団体を「千葉県調理師会千葉支部」という)。千葉市調理師会(会長C)は、X1及び千葉県調理師会千葉支部(会長X2)に対し,千葉市調理師会がX1千葉支部であること等の確認の訴えを提起しましたが、Cと千葉県調理師会千葉支部副会長Dで和解が成立し、同訴えは取り下げられました。

 ところが、Ⅹ2は、平成20年に本件商標の出願を行い、一同は拒絶理由通知が出されたが平成21年登録されました。

 また、Ⅹ2を会長とする千葉県調理師会千葉支部は,平成20年通常総会で規約を変更し,名称を「千葉県調理師会 千葉支部 千葉支部調理師会」から「千葉県調理師会 千葉市支部 千葉市調理師会」と改めました。

 この間、千葉市調理師会(会長C)の会員数は減少していました。

 千葉市調理師会は、X2名義の商標権侵害を理由とする警告状を受け、これに対し上記登録商標に対し無効審判を請求したが維持されました。また、Cを会長とする千葉市調理師会は一般社団法人として設立され,被告となりました。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字・着色筆者)

Ⅰ.本訴請求について

1 商標権侵害の主張について
 裁判所は、Ⅹ1(Ⅹ2が商標権を取得したが、Ⅹ1に譲渡した。)が本件商標権を有し、被告の使用標章及び商品役務は同一又は類似することを前提に、Yらに抗弁事由があるか以下のように検討しました。


ア)自己の名称を普通に用いられる方法で表示する商標(商標法26条1項1号)か

 裁判所は、被告のウェブサイト及びチラシには,その目立つ場所に,又は目立つ態様により,調理師試験に関する業務の提供者として「一般社団法人千葉市調理師会」と表示され,その表示中「千葉市調理師会」の文字が強調されていると認めることができるのであり,被告は,被告標章を,殊更に需要者の注意をひく方法で表示し、被告標章がYの名称を普通に用いられる方法で表示するものと認めませんでした。


ウ)先使用権(商標法32条1項)を有するか

 裁判所は「平成18年6月のX1からの退会及び分裂前,千葉市調理師会は,調理に関する講習会等の開催の事業を行い,その役務について被告標章の使用をしており,その結果,被告標章は,千葉市調理師会の業務に係る役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていた」と認め、「平成23年8月に設立されたYが同設立前の任意団体としてX1からの退会及び分裂前の千葉市調理師会の業務を承継したものであるならば」、「X1は,Yが継続してその役務について被告標章の使用をする限り,Yに対し,被告標章の使用の差止め等を請求することができない」とし、「Yが千葉市調理師会の業務を承継したものであるか否か」について、検討し、以下のように認定しました。

 (ア)平成18年6月,Cを会長とする千葉市調理師会がⅩ1から退会したが,千葉市調理師会の会員のうちⅩ1からの退会に反対するものの団体がⅩ2を代表としてⅩ1に残留し千葉県調理師会千葉支部として新たに承認されたこと、

(イ)平成19年3月、Ⅹ2を会長とする千葉県調理師会千葉支部が規約を定め「千葉支部調理師会」と称したこと、

(ウ)Cを会長とする千葉市調理師会は,平成23年8月1日,一般社団法人として設立され,Yとなった、と認め、

さらに、

(エ)Cを会長とする千葉市調理師会は,Ⅹ1からの退会後,平成23年8月のYの設立前においても,任意団体である千葉市調理師会として,調理に関する講習会等の開催の事業を行っていたと認めることができる。

 

(オ)Ⅹ1からの退会及び分裂前の千葉市調理師会の基本財産(事務所,預貯金),印章,名簿等を引き継いだのはCを会長とする千葉市調理師会であったことを併せ考え、

 

(カ)Ⅹ2を会長とする千葉県調理師会千葉支部も,千葉市調理師会の分裂後,調理に関する講習会等の開催の事業を行っていたこと、(キ)平成20年6月,Ⅹ2を会長とする千葉県調理師会千葉支部が名称を「千葉支部調理師会」から「千葉市調理師会」と改めたこと、(ク)Ⅹ1からの退会及び分裂前の千葉市調理師会の会員832名のうち,425名がCを会長とする千葉市調理師会の会員となり,310名がⅩ2を会長とする千葉県調理師会千葉支部の会員となったが,Cを会長とする千葉市調理師会の会員数は平成19年度においては276名に減少したこと、を斟酌しても,

 

Yが設立前の任意団体としてX1からの退会及び分裂前の千葉市調理師会の業務を承継したと認め、Yは継続してその役務について被告標章の使用をしていると認めることができるとし、X1はYに対し商標法上の差止等請求は認められないとしました。
 

2.不正競争防止法による請求について
ア 被告標章の使用行為が不正競争防止法2条1項1号に該当するか否か
 X2は,Ⅹ1の理事であり,自ら調理に関する講習会等の開催の事業を行うものでないから,Yが被告標章を使用して調理に関する講習会等の開催の事業を行う行為によって営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがあると認めることはできず、X2の不正競争防止法による差止等の請求は理由がない。
 Ⅹ1については、X1の法人格の一部を成す千葉県調理師会千葉支部が,平成20年6月18日に名称を変更した後,千葉市調理師会と称して調理に関する講習会等の開催の事業を行っているため、「「千葉市調理師会」の商品等表示が千葉県調理師会千葉支部の事業を表示するものとして千葉市及びその周辺において調理師試験を受験する者などの需要者の間に広く認識されている」と認められれば、被告標章は、類似の商品等表示であると認められ、Yが被告標章を使用して調理に関する講習会等の開催の事業を行う行為は「他人の商品等表示と類似の商品等表示を使用して他人の営業と混同を生じさせる行為」であるから1号の不正競争に該当するとし以下のように検討し、認定しました。


イ 不正競争防止法の適用除外に該当するか否か
 裁判所は、「法3条の規定は,他人の商品等表示が需要者の間に広く認識される前からその商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使用する者又はその商品等表示に係る業務を承継した者がその商品等表示を不正の目的でなく使用する行為」については、「1号に掲げる不正競争に該当」しても適用されない(同法19条1項3号)」ところ、「X1からの退会及び分裂前,千葉市調理師会は,調理に関する講習会等の開催の事業を行い,その役務について被告標章の使用をしており,Yが,設立前の任意団体としてⅩ1からの退会及び分裂前の千葉市調理師会の業務を承継し,継続してその役務について被告標章の使用をしていることは,上記…のとおりであ」り、「Yは,「千葉市調理師会」の商品等表示が千葉県調理師会千葉支部の事業を表示するものとして需要者の間に広く認識される前から類似の商品等表示である被告標章を使用していた,Ⅹ1からの退会及び分裂前の千葉市調理師会からその商品等表示に係る業務を承継し,自らも継続してその役務について被告標章の使用をしている者である」から,Yが被告標章を使用する行為は法3条の規定は適用外とし、Xの不正競争防止法による差止等の請求は理由がないと判断しました。


Ⅱ.反訴請求について
1.不法行為の成否について
ア X2の不法行為
 X2は,平成20年に本件商標について出願をし,拒絶理由の通知に対する意見書の提出を経て,平成21年商標登録を受け、その登録に係る本件商標権に基づき、同年、Cを会長とする千葉市調理師会に警告書を送付し,平成29年、本訴を提起したが、Yは,これらの行為がYに対する不法行為を構成すると主張するのに対し、裁判所は以下のように検討し認定しました。

 

 「これらの行為は,平成18年6月,千葉市調理師会が,X1からの退会など組織運営の基本方針をめぐる対立から,Cを代表とする団体と,X2を代表とする団体とに分裂したことに伴い生じた,千葉市調理師会の名称を使用する権利に関する私法上の紛争を自己に有利に解決するためにされた訴訟手続外又は訴訟手続上の権利主張行為であると認めることができる」。

 「実体的権利の有無にかかわらず,私法上の紛争を自己に有利に解決するために権利主張行為をする権利は保障されなければなら」ず,「その行為は,その内容や手段方法が社会観念に照らして許容される範囲を超えるものでない限り,違法とな」らない。「特に,訴えの提起をした者が敗訴の確定判決を受けた場合において,当該訴えの提起が相手方に対する違法な行為であるのは,当該訴えの提起をした者が当該訴えにおいて主張した権利又は法律関係が事実的,法律的な根拠を欠くものである上,当該訴えの提起をした者が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,あえて当該訴えの提起をしたなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる…」。(最高裁判所昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)
 裁判所は、「X2の上記各行為のうち,本件商標についての商標登録出願及び意見書の提出並びに警告書の送付は,いずれも,その内容や手段方法が社会観念に照らして許容される範囲を超えるも」と認められず、本訴の提起は,X2が、上記の判断基準に照らし「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認め」られず、「X2の上記各行為は違法とな」らないとし、よって、X2の上記各行為に基づく損害賠償請求は理由がないと判断しました。

 

イ 原告法人の不法行為
 裁判所は、Ⅹ1の本件ウェブサイトに掲載した本件記事1の「近年,「NPO法人食の安全を守る会一般社団法人千葉市調理師会」という紛らわしい名称で,ホームページを立上げ,講習会や会員の募集をしている団体があり」「「千葉市調理師会」の名称は商標登録されており,その侵害は許されません」等の記載部分を踏まえ、以下のように認定しました。

 すなわち、「本件記事1は,X1の千葉支部として千葉市調理師会が従前から存在していたところ,近年「NPO法人食の安全を守る会一般社団法人千葉市調理師会」という紛らわしい名称を使用して同じ事業を行う団体が現れたが,その団体は,X1とは一切関係がなく,本件商標権を侵害しているものであるという事実を摘示し,需要者に対して注意を促すものであると認めることができ,本件記事1を閲覧した者はYが商標権を侵害する信用することができない団体であると認識すると認めることができ」、「本件記事1はYの社会的信用を低下させる」といえ、本件ウェブサイトに本件記事1を掲出したX1の行為はYの信用を毀損する行為である」と認めました。

 そして「Yが,設立前の任意団体としてX1からの退会及び分裂前の千葉市調理師会の業務を承継したものであり,その役務について被告標章の先使用権を有する」とし、「本件記事1は真実と異なる事実を摘示するもので」、「その事実を真実と誤信したことについて相当の理由があるとい」えないと判断しました。

 
 本件記事2については、本件記事2を閲覧した者がYが信用することができない団体であると認識すると認めることはできないのであり,本件記事2は被告の社会的信用を低下させるものであるということができないから,本件ウェブサイトに本件記事2を掲出したX1の行為が被告の信用を毀損する行為であると認め」られないと判断した。

 

 Ⅹ1は,Ⅹ2と異なり,本件商標権を有するものでないが,Ⅹ2と密接な関係を有していることによれば,本訴の提起は,Ⅹ1が,本訴における主張が根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,あえて当該訴えの提起をしたなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認めることはできず,Ⅹ1の本訴の提起は違法となるものでない。
 本件記事1の掲出に基づく損害賠償請求は理由があるが,本件記事2の掲出に基づく損害賠償請求及びX1の本訴の提起に基づく損害賠償請求は理由がない。


ウ Ⅹらの不法行為
 千葉県調理師会千葉支部が「千葉市調理師会」として千葉市から調理師研修事業に係る補助金の交付を受けていたところ,千葉市は,令和2年3月18日,千葉県調理師会千葉支部が補助金の交付を不正に受けていたことが判明したと発表した。Yは,このことにより名称の類似する被告の社会的信用が低下したと主張するが,同事実は,本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。補助金の交付を受けた行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

 

■BLM感想等 

 本件では、「Yが設立前の任意団体としてX1からの退会及び分裂前の千葉市調理師会の業務を承継したと認め、Yは継続してその役務について被告標章の使用をしていると認めることができる」とし、被告Yが、任意団体として活動していた「千葉市調理師会」の業務を引き継いだ者と認定されましたが、裁判所は、本件当事者の関係について「平成18年6月,千葉市調理師会が,X1からの退会など組織運営の基本方針をめぐる対立から,Cを代表とする団体と,X2を代表とする団体とに分裂したことに伴い生じた,千葉市調理師会の名称を使用する権利に関する私法上の紛争」と位置付けており、いわば喧嘩両成敗のような判断で、X2が商標権を取得したことについて、「自己に有利に解決するためにされた訴訟手続外又は訴訟手続上の権利主張行為であると認めることができる」と判断しています。したがって、XらとYは、少なくとも両者相互の関係では、「千葉市調理師会」の標章の使用について差止請求を行うことができないことになります。これでは需要者の混同を惹起しないか、という疑問も生じるところでしょう。BLMとしては、需要者は確かに両者が互いに関連するものか、または、同じ組織と誤認する可能性もあり、問題であるように思いますが、何より、当事者らが、混同されることをよしとしないものと考えます。そこで、それぞれが独自の表示を付加したり、さらに別に価値を提供できるよう努力するなどが期待できるのであれば、自然に棲み分けされていくのがよいのではないかと思ったりします。実際に「一般社団法人 千葉県調理師会」と、「一般社団法人千葉市調理師会」をWEB上で検索すると二つのWEBが現れ、混乱しますが、よくよく見ると、図形(マーク)が異なります。また、後者は、「公益社団法人日本調理師会の正会員」である旨謳っており(こちらのWEBより引用)、WEBのトップページには、「図形+公益社団法人 日本調理師会」の下段に、「一般社団法人千葉市調理師会」の表記がされています。これに対し、こちらのWEB上には「図形+一般社団法人 千葉県調理師会」の掲載がありますが、「図形+公益社団法人 日本調理師会」の文字は発見できませんでした・・・確かに、混乱しますね。BLMの認識が間違いであればご指摘ください。とはいえ、棲み分けができているのではないでしょうか。裁判所の一存でもし本件原告を勝たせていたら、被告の下に蓄積された無形資産は消滅していたかもしれません。両者に不正競争の目的がないことを条件として、棲み分けをさせてもよいように思います。

 

By BLM

 

 

 

 

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