研修最後の日
一度も成果を出せぬまま、店内を徘徊する日々が続いた。
次回から良くも悪くも独り立ち。
出来れば今日、結果を出したい。
しかし焦りは禁物だ。
誤認だけは避けなくてはいけない。
自分が犯罪者になるだけでなく、会社にも迷惑がかかる。
誤認逮捕した際の示談金は30万円が相場で、これを狙って、万引きGメン狩りが実際行われているらしい。
店内にいる間一瞬たりとも気が抜けない。
かなりストレスのたまる仕事だ。
休憩時間も過ぎて、ハーフターン。
あと四時間で任務終了だ。
万引き犯がいないのか、自分が見つけられてないだけなのか・・・
しかし、ラスト1時間で見つけてしまった。
その日は日曜大工店で巡回をしていた。
対象者は18~20歳くらいの、白系作業着を着た男
店内徘徊しながら軽くあたりをきょろきょろする挙動が出ていた。
尾行していることが分からないように、軽く距離を取りながら、尾行を続けた。
工具コーナーに座り込むと対象者Aは右手でスパナを手に取った。
時間は19:30(細かい時間までは覚えていないのでなんとなくの時系列で)
そして手に持ったまま店内を10分程徘徊。
店の奥まった角。
店員の目も監視カメラも映らないピンポイントの死角にAは移動し19:42分隠匿を現認。
左胸の内ポケットだ。
そして、何食わぬかおで出口へと向かった。
この時私は、心臓がけたたましく鳴り響いていた。
なぜか万引きをしてる方より見てる方が興奮していたと思う。
喜びか、怒りか、悲しみか、自分でも理解できないが人生で一番と言っても過言ではないくらい興奮していたと思う。
そして店内を後にするAを鼻息を荒くしながら声をかけた。
「お客さん、お会計まだの物ありますよね?」
そして、素直にAは「ごめんなさい」と一言放ち、事務所へ小刻みに震えながらついてきた。
つづく・・・