ネタバレなし。
好きなホラー映画について語っていくだけ……続くのか不明なシリーズ。語るというか、これは思い付いたことをあれこれ垂れ流すだけの、論旨の流れもあいまいな駄文である。以前『ミスト』についてはこのブログに書いているし、覚え書きのパッチワークだと思っていただければ。
グリーンマイル、ショーシャンクの空になどヒューマンドラマの感動作という印象が強いキング×ダラボンのタッグだが、3作目のこの作品だけは毛色がガラッと変わっている。身の毛がよだつような、精神の滅入って来るようなと言えばいいのか……陰惨で、思わず動悸の激しくなってくるホラーである。
鬱映画というような言い方もされる。この表現は好きではない。ミスティックリバーもミストもファニーゲームもダンサーインザダークもセブンも、みな志向しているところの違う作品だし、個人的には好きな映画も嫌いな映画もある。それらがみんな同じ雑なくくりでまとめられるのは我慢できないし、そもそも鬱映画という雑な表現は、目の前に不可解な形で立ち現れた何ものかの不可解さを無効化する呪文のようなものであり、それは創作物に対する誠実な態度ではない。
さて、肝心のミストだが、過小評価された作品だと思っている。過大評価の間違いではない。この映画は、もっともっと評価されてしかるべきではないか。やはりみんな、あまりに結末の強い印象に引っ張られすぎて、それまでの時間を通じて見てきたはずの、編集、映像やデザインの秀逸さ、演出、語り口のうまさ、また役者たちの過不足ない名演を忘れてしまうのだと思う。完璧と言っていいほどよく組み立てられた映画ではないか。特に不穏な空気感で前半を引っ張る時間配分の構成がうまいし、見ながらも無駄な金を使っていないのだろうなと想像できる。単にその辺のスーパーマーケットを舞台として切り取るだけで社会の縮図を浮かび上がらせ、作品の品格を保ちながら世界の終末を予感させるのは低予算映画としての手腕の見事さを実証している。ショックシーンは正視しがたく無残だし、それでいて正確にコントロールされている。キャラクターたちの人物造形や、彼らの言動が生み出していく展開、この作品は本当に何度繰り返し見てもケチのつけようがない。
ちなみに、演出で素晴らしいと思うのはロープである。このシーンはとにかくよく計算されている。映画とはかくあるべきなのだ、と思う。
ダラボンのスタイルも変化していると思う。個人的にはショーシャンクなどよりこちらの映像感覚、映画の組み立て方のほうが巧妙で好きだ。より技巧的になっているというような主張をしているわけではない、うまく文章化できないが、とにかく……こちらのほうが、映画としての刺激に満ちていると思うのである。
原作からそのままだと言えばそうだが、霧という因子が見事に題材にマッチしている。この映画には絶対に霧という視覚的要素が必要だったことは前に書いた通り。
逆に、映画から削られるべくして削られた要素もある。ダラボンのオーディオコメンタリー曰く、もともとは「アローヘッド計画」が失敗する場面を冒頭に入れるはずだったらしい。しかし、役者からの「それは必要なのか」という意見を聞いて考え直し、必要ないと判断したらしい。これは本当に正しい判断だと思う。すべては霧の向こうに垣間見えるだけで十分なのだ。
ちなみに、本作には白黒バージョンが存在する。監督の意図としてはこちらが理想に近いのだそうだ。マッドマックス怒りのデスロードしかり、監督の「白黒で公開したい」という程度の望みがかなえられないのは不憫で仕方ない。それでDVDに収録された白黒版を見てみるとこれはこれで独特の雰囲気と怪奇映画的テイストが理解できるのだが、正直に言うと、僕はカラー版のほうがより完璧に近いと思っている。ドキュメンタリー的な映像のタッチとスーパーマーケットという卑近な舞台設定がより効果的に活かされるのはカラー版のほうだという気がするからだ。
もちろんオチに言及しないわけにはいかないだろう。と言っても、ここだけにフォーカスするのは作品理解の目を曇らせると思う。この作品が描き出す恐怖の本質は一貫している。最後の最後に至るまで。賛否両論ある結末だが、「怖い」選択肢と「怖くない」選択肢があるとして、ホラー映画が怖いほうを取るのは十分に納得のいく選択だと思う。
人間というのは意味を考えずにはいられない。因果を考え、文脈を考え、必然性を考える。それは映画を見るときも同様で、スクリーンに対峙して人は、なぜここでこうなるんだろう? なぜここをこうしたんだろう? という不断の思考を重ねることになる。本作における不条理極まりない展開の連続は、そういった理由探しの思考を罠のように喚起する。しかし、この映画でそのような思考を突き詰めていくと、けっきょく「フランク・ダラボンとかいういかれた変態男の趣味だから」というところに帰着せざるを得ない。そういう部分まで含めて、我々が映画を見る姿勢そのものを解体してしまうような、恐怖の本質をつかんだ完璧な傑作だと思う。