これまでのあらすじ
橘竜二は年始早々死去した妻の故郷を訪ね幼少のころの生活を議兄から聞きながら同じ時代を生きてきた自分の生活懐かしく
蘇ってきた。竜二の心の奥に眠る故郷の風景と匂いが思い出され帰郷してみたくなって訪れ親戚の墓所の片隅に眠る父母に感謝の思いを込めて両手を合わせた。76年に渡るこれまでの道程で言えば僅かな時間で有ったが貴重な時間だったことが今にして解った。
橘竜二は自宅に帰った。
手持ちの荷物の整理のすぐ終わり何もするにも億劫で気力すら無くなっている自分を発見してギョッとした。
新聞記事の中に一人生活者の高齢者が”孤独な死”の状態で発見されるという記事をこれまで数回目にしてきた。
竜二は今、誰も居ないこの家で独りで生活し始めて数カ月、『喪中』と言われる宗教儀式が終わった自分を客観的に見つめることのできるほど落ち着いた心でなっていることに感謝した。
ソファに座りウトウトとしていると携帯の呼び出し音だった。
相手は西村君だった。
「帰って来た?」
「あぁ、やっとね。出発した日時は憶えているが、今日は何月何日だったけ??まだ確かめていないんだ。‶浦島太郎”の様だね。痴呆症の初期症状みたいな精神状態だね」
橘竜二は強張った両肩の筋肉に乗った首根っこをグルグルと廻しながらカレンダーをみて言った。
「今晩の教会の夜の祈祷会に出てこない。明日の土曜日か日曜日に同じ祝福メンバーが集まろうと言っているんだ。その前段階でちょっとした打ち合わせを橘君と話したいんだ。この会合の経費を会費で少し援助しようという話に役員会で決ったんでね」
「そう。それじゃあ、今晩出かけます」「じゃ、一時間前の9時に私も行くので詳しい話はその時に・・」
友人西村君が言っていた「もし19歳でこの信仰の道に入っていりゅたなら単調なツマラナイ人生を送っていたか想像つくんだ」と口にした。彼は大学2年生の時伝道されそれ以来、57年間の信仰者だった。教会長として日本各地に赴任し、様々な関連機関の責任者を務めていた。年齢は橘竜二より1歳上だったが、信仰歴には3年の開きがあった。
自分と同様彼も浮き沈みが有ったのは時々の会話の中で出てきた。
橘竜二も『もし21歳の青年期に信仰に目覚めていなかったなら・・・?』とここ数年考えていた。
”人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり”(平家物語)
終わり 2025年11月1日
告 2023年11月19日からスタ-とした小説4部作を終了します。長い間有難うございました。
次回 12月初旬から「ドキメンタリ―風小説」をスタ-とする予定にしました。
乞うご期待!!