小説 ♪絶唱♪ -7ページ目

小説 ♪絶唱♪

ドキメンタリ-風小説絶唱
epilogue《エピローグ》小説それから
第3部 こころ 75歳になった男が感じる天の役事
第2部 共鳴太鼓 未来を背負う若き世代の物語
第1部 やまぶきの花 戦後まもなく生まれた男が生きた昭和、平成、令和の物語。

  

 昨日からカーラジオのニュースは「明日午後から翌朝にかけて雪になるでしょう」と天気情報を伝えていたが、一夜明けた今日の午前中の空は青空が拡がって太陽の熱でホカホカ陽気だった。

 橘京助は午後からのパートのため会社の野外駐車場で30分間うたた寝をしてしまった。軽自動車の車内は申し分ない環境だった。

 午後1時過ぎ担当部署の事務所のドアを開けた。出勤予定表には主任とパートの女性の二人が居るはずだったが室内には誰も居なかった。

 今日の仕事の予定は前もって知らされていた。ビルの屋上にある散歩コースの傍に建っている木造の柱と外壁の防腐剤入りのペンキ塗りだった。コロナ禍と人員不足のため、ここ二年ばかり手入れをしていなかった事もあり劣化が激しかった。これまで2日間ばかりかかって腐食した箇所を修理してやっと塗装までこぎつけた。

 作業予定の3時間は瞬く間に過ぎた。気が付いて腕時計をみると午後4時過ぎだった。急いで塗装用具の片付けをして毎日に決められた日課になっているゴミ回収作業のためビルに1階に降りた。

 ビルの北側は隣にホームセンタ-の駐車場が有った。ホームセンタ-の駐車場の敷地とビル1階との高低差は3メ-トル以上だった。

 日没には少し時間が有った。寒風がホームセンタ-の駐車場から土手の傾斜に沿って流れ落ちてくる。

 空から白いモノが細長く尾を引くような小雨に混じって落ちてきた。

「雪か?」

 作業着の襟の隙から寒風が容赦なく背中に流れ込んできて橘京助はゾックと震えた。 

 ビルの13階から1階までエレべ-タ-ホ-ルに有る廃棄物の回収作業は毎日2回あった。

 ゴミ回収カ-トを所定の場所に持ち込み、塗料と塗装用具の後処理を終えて橘京助は1階の事務所に入っていった。すべてが終わったのは5時15分過ぎだった。

 1階の物置兼事務所では主任と出先から帰社した社員2人とパートの女性で今日の報告と雑談中だった。

 外気で冷え込んだ橘京助の身体が暖房で急激に温められた。湿気を含んだ息がマスクした隙間を抜けてメガネを曇らせた。

 『御苦労様です」

 声が掛ったが湿気で濁ったメガネの先にいる人物では無かった。

夕方5時30分が就業終了の時間だった。

 

 帰る車のなかで付けたカーラジオは夕方6時のニュースが始まったばかりだった。男のアナウンサ-だった。

車の運転中はもっぱらFM放送のクラッシク音楽と決めていた。ハンドルを握っている時、運転に集中できるのはクラシック音楽が流れている時だと気が付いたからだった。もちろん流れてくる音楽には全く関心が無かった。川魚が急流であろうが岩に行くてを遮られようが水流を自在にかき分けて進むように集中できた。

 後期高齢者の運転で軽度の事故でも起こしたなら自主的運転免許返納を勧められるのは予想していた。

 

 帰宅してスマホでSNSの“X”を見た。

『世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長が辞任することが5日、関係者への取材で分かった。来週にも会見して発表し、高額献金などの被害を訴える元信者や現役信者に向けた謝罪も表明する。後任には堀正一・元副会長が就任する 2025/12/5 11:02』の文字だった。

 田中会長が辞任するというのは数カ月前、本人の言葉で聞いていたが・・・・。

 たが、橘京助が驚いたのは教会サイドから事前発表もなく、いきなりSNSの“X”から知らされた事だった。

 

 『時代が恐ろしいスピードで進み、世界に向かって拡散している』