小説 ♪絶唱♪ -28ページ目

小説 ♪絶唱♪

ドキメンタリ-風小説絶唱
epilogue《エピローグ》小説それから
第3部 こころ 75歳になった男が感じる天の役事
第2部 共鳴太鼓 未来を背負う若き世代の物語
第1部 やまぶきの花 戦後まもなく生まれた男が生きた昭和、平成、令和の物語。

  

前回のあらすじ

本田は同級生の言葉に今の季節を思い出し、いつの間にか都会生活に埋没している自分に気が付いた。

 金、土曜日とパート休みに中国山地を越えて日本海にある妻の実家の周辺の草刈、草抜きに出かけてみることにした。距離にして150キロ。途中高速道路に乗り、後はひたすら国道だが山道を黙々と走る。翌朝、エンジンを始動させた。突然閃きに似た気持ちが起こった。「折角、中国山地を抜けるなら“乙女峠”に罪人として連行されて行った人たちが辿った道を追慕しながら走ってみよう・・・という思いが。瀬戸内海沿岸の廿日市市から県道30号別名津和野街道といわれる道を北上し中国山地の山裾を縫ってはしる道を津和野に向かった。120キロ近く軽自動で走るきるには身体的にかなりの負担だった。この津和野街道を罪人の烙印を押され、背教のために故郷長崎から異国の地、津和野に護送され、言葉も違う地で背教を強要され乙女峠で拷問され、獄中死した人々の気持ちが少し判った気がした。

 

 二日間で往復300キロ近く軽自動車で走った。誰も居ない家内の実家の周辺の雑草を処理して帰郷し、その日はダウンして寝込んだ。翌日はパート勤めだった。重い身体に鞭打ちながら午後5時半の就業終わりを迎え自宅に帰って夕食後、寝入ってしまった。

 ・・・・・・

 夢をみた。夢の中で道に迷った。迷った夢をみた。妻と一緒だった。今、住んでいる県内だった。歩きながらバス停で空港に行くバスの通過時刻が目に入ってしばらくするとバスが来て、妻は乗り込んで出発した。空港から韓国に渡航することになっていた。

 本田は独り残された。県内のいえども聞いた事のない町名だった。バスの通過時刻表の行き先名に知っている名前は無かった。困った本田は道を歩いている人に尋ねた。『広島市に行くにはどのバスに乗って何処で乗り換えたら良いのでしょうか?」と・・

 だが、「広島市?聞いたことは有るがどう行けば良いのか?、俺も判らないね?」聞く人聞く人、誰も知らなかった夕闇が段々と襲ってくる時間になっていった。本田は焦ってきた。が、不思議と落ち着いている自分が奇妙だった・・・・・。

 

 連休明けの翌週の会合の時間にこの夢の話をすると荒元夫人がすぐ反応してきた。

「それは本田さんが何時も本ばかりで勉強しているからでしょう。少しは自分で体験してみる事が大切よ。知識の森の中で道に迷った夢よ」

 本田は『そうだ」とは口にしなかったが、何となくそんな気がしていた。

 “知識は知識で不足な部分が出てくる。それを解くために更に知識を増やさざるを得なくなる”このアリ地獄にはまり込でしまうと抜け出る道もアリ地獄に嵌まり込んでしまう。本田の青春時代はそうだった。

 荒元夫人が言った「信仰者は祈りを失ったら、ただの口煩いん年配者しかすぎないのよ。しっかり祈って、悟らないとね」ストレートに言ってきた。

  本田はこのところの多忙と4月最後の週から連休の間はパート勤めだった。この期間、教会も閉鎖になった。本田が教会が再開しても訪れる気持ちが薄らいでいたのも事実だった。

 本田と荒元夫人の会話を聞いていた南坂朱美が「祈りと言えば昔、札幌で伝道しているころ不思議な事が有ったのよ。誰も伝道できなくて困ってね。地下鉄に乗ってね郊外の山で大声で叫んでスッキリして帰って再び地下街で伝道をするとね。声をかけた私と同年齢の女性がね言ったの『今日は誰かと会えるような気がしていたの』とね。その人は伝道できなかったがね。この時、思ったわ。私が知らない世界で何かの繋がりが出来ているんだと感じたわ」。南坂朱美は昨年主人を亡くしていた。「最近は時々夢に出てきてくれるの」という。

 南坂さんが札幌の話題を口にしたことで本田は東京、北陸、北海道と巡回しながら教会の伝道部隊に参加した23歳ころの事を思いだして

 「僕がね、巡回伝道部隊にいる頃、東京の教会で活動していた時だったね。僕と同じくらいの年齢の男の子が突然異国の言葉を口にして喋り始めたことが有ったね。英語やヨーロッパの言葉ではなくアラビア語のような響きのある言葉だったのは記憶しているね。1970年代でアラビア地方の人を日本で見かけること自体少ない時代にね。だから皆ビックリしたね」と言った。

 

 「私が学生部にいるころ同じ大学の兄弟が時々お経の様な呪文を口にする人もいたね。皆の話を聞いて今思い出した」と橘が言った。

 

 昼の休憩時間はこうした霊的な話題で盛り上がった。

 

 橘が「聖書の中にもイエス様が昇天後、『五旬祭の日が来て、一同が一つになって集まっていると、 突然、激しい風が吹いて来るような音が天から聞こえ、彼らが座っていた家中に響いた。 そして、炎のような舌が分かれて現れ、一人一人の上にとどまった。 すると、一同は聖霊に満たされ、“霊”が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話しだした』(使徒 2:1)と有るものね。そう不思議な現象ではなものね」

 本田は時計に目を落とした時

「そこまで解明されると文科省もお手上げだね」誰かがボッソと言ったのが耳に入ってきた。

  次回更新5/24ころ