これまでのあらすじ

 学園創立110周年記念に開催される文化祭に和太鼓チームは演目「イエス・キリスト」を演じる。神と悪魔、善と悪、許しと戦い、和合と分裂。負の象徴として大太鼓の対面打ちの裏側を担当することになった2年生の小川清。負の心情を越えてこそ人に共鳴を起こせる作品になると気が付く

 

 2部のリーダになっている小川清が額に汗の玉を浮かべながら「リーダーの役を副部長に代わってもらって僕は副リーダーにしてもらえませんか?」と副部長の岡村優斗に言って近くの椅子に腰かけようとした時、部室の入口ドアが開いた。

 和太鼓クラブのある旧館1階の隣教室の美術部の田辺守人だった。

「副部長チョッと相談だけどね。和太鼓クラブが文化祭に演舞するイエスキリストの舞台の幟か画の製作に僕ら美術部も参加させてもらえませんか?」と言った。

 岡村は美術部の技量は春の運動会の応援席の横の大きな幟の絵や応援席の後ろの横断画で『さすが美術部だけあって迫力もあり、観客の位置も考えた作品を描いているなぁ』という印象を受けた。総勢14,5人で特に目立った言動のある部員は少なかったが作品は観る人の心を打つものを描ける人たちだと思っていた。

 岡村は「申し出は有りがたいが僕一人では決めれないし、部長と何人かのプロジェクトチームのメンバーがこれから来ると思うのでその時少し喋ってもらえない?」

 

 午後3時過ぎになると部室に上村佑子部長、3部のリーダーの光永誠と2,3人と集まってきたきた。

 岡村が上村佑子と光永誠に美術部の部長が「和太鼓クラブの演目の舞台画を受けさせてもらえないか?」と言ってきたと伝えた。

 佑子は「美術部が参加したいと言う申しいれなら、私たちが断る理由はないね」後を受けて光永が「それは良いんじゃない、と言うより歓迎じゃない。僕たちはこれからの短い時間で演舞の完成に向かって精一杯だもの」と言った時、美術部の田辺守人が入って来た。

 

 岡村が「丁度良かった。さっきの事で話していたんだ」椅子を集めて円をつくるように並べはじめた。

 田辺は「僕たちは体育祭の幟旗や舞台絵に取り組んできましたが終わってから文化祭の部としての目標作りに悩んでいるところでした。隣の部屋の和太鼓クラブから伝わってくる太鼓の音と活動的雰囲気がビンビン響いてきました。最近の僕たちのクラブを覆っている淀んだ空気をどうにかして一掃したいという思いが段々と強くなってきました。

 聞くところによると和太鼓クラブは文化祭の演目も定まっていて夏休みは部員揃って練習に取り組んでゆこうという計画が着実に進んでいると聞きました。その熱気が部屋の壁を越えて伝わってきました」

 ひと呼吸おいて「僕たち美術部員も和太鼓クラブの演目の一部に参加させていただいて皆さんの熱意で部員たちに特に1,2年生には創造意欲を呼び覚ましてもらいと思ってお願いにきました」と和太鼓クラブのメンバーの一人一人の目を見ながら言った。

 

 光永誠が「僕としては賛成というより期待したいと思っています。演目イエスキリストに決まった会合の時、『演奏に連動して舞台に場面ごと絵で表現したらもっとより良い作品になるのではないか』という意見もありましたので」と言った。

 佑子はさらに前の2月の会合の時の場面を思い出していた。

 

 ・・白石かづえが「見ている人、聞いている人がより感動的になるには途中に入れるナレーションの大切だと思います。それともし可能なら創作ダンス部に頼んで一人舞台で披露してもらうともっと盛り上がるかもしれません」と発言したが、同じ同級生の中島光義が「それじゃますます和太鼓演奏の存在というか意味が脇役に回ってしまうので、僕は反対ですね」と異を唱えた・・

 

 上村佑子は2月の会合の会話を頭で反芻しながら「確かにナレーションと創作ダンスで舞台で披露してもらったらという意見もありました。その時、和太鼓演奏の存在が脇役にまわってしまうという意見がでました。今は私たちのこの演目『イエス・キリスト』の主眼というか、観点というか、演じる視点というものがハッキリした時点で美術部にこのことを十分に理解してもらってお願いするのがもっと良い作品に仕上がる気がしてしてきました。ここにいるメンバーだけで決定するわけにはいきませんのでプロジェクトチームのメンバーの了承を得て、さらに部員全員の納得も得た上で決めてゆきたいと思います」

 集まったメンバーに拒否する生徒はいなかった。

 

 広島地方気象台は7月20日中国地方が梅雨明けした模様と発表した。

 夏休みが始まった初日の28日昼の休憩時間。

 美術部の申しでの件と休み中の1部、2部、3部のメンバーによる各部門ごとの練習スケジュールの発表を兼ねた会合が開催された。

 太陽は校舎の真上にあり部室の窓を全開し入口のドアを開けっぱにしても暑く部屋に入ってくる空気は熱気を帯びていた。だが、時折窓から入ってくる風は山の緑の樹木の間隙を廻ってきて心地良かった。

 全員の賛成で美術部の提案は了承された。

 

続 <毎週土曜日掲載予定>