小説 ♪絶唱♪

小説 ♪絶唱♪

ドキメンタリ-風小説絶唱
epilogue《エピローグ》小説それから
第3部 こころ 75歳になった男が感じる天の役事
第2部 共鳴太鼓 未来を背負う若き世代の物語
第1部 やまぶきの花 戦後まもなく生まれた男が生きた昭和、平成、令和の物語。

  

凡人が世俗の波の中から抜けきるにはもう少し時間が必要だった

『"日本刀こそ日本人の心神髄だ”と目覚めたのは何時だったろうか?』
 橘京助は仰向けに寝転びながら考えた。
 いやいやそんな大袈裟なものでは無かった。もっと身近な毎日の遊び道具だった。何時も身近に有った。
 幼少の頃だった。小学校の校庭の並びに神社があった。毎年秋祭りの初日、小学校は午後から休み、翌日は休日だった。
 校庭には屋台の列が何筋も並んだ。焼きそば屋、金魚すくい屋、綿菓子屋、玩具屋、射的屋、イカ焼き屋、見世物小屋まであった。14地区の集落が集まった一年に一度の一大イベント”秋祭り”だった。その夜は神社境内に櫓造りの舞台が造られ、神楽が奉納された。出場神楽団は近郊の町村から数社中あった。午後6時から始まり、演目は一社中で2つの場合もあり、夜中12時を越えるまで続いた。
 秋祭りの初日、小学校は昼食前に授業が終わり下校した。家で昼食後再び登校した。屋台目当てだった。
 母の実家から祖父が毎年来ていた。子供たちにお小遣いを振舞ってくれた。
 京助はプレゼントされたお金を手に焼きイカ屋の醤油の焦げる匂いの中を抜け、目指したのは屋台の玩具屋だった。男の子の目当てはこうした玩具を売る屋台だった。同じような店が数店あった。
 火薬が入ったテープを装着するオモチャの拳銃、金銀赤紫黄の色紙で飾られた吹き矢、日本刀も並んでいた。刀身を納める鞘は金糸銀糸で文様が施された布地で飾られていた。。
 京助は母方の祖父から貰った小遣いで装飾された日本刀を買った。
 友達の日本刀より数段安価だったが、鞘から抜いた金属の刀身の柄を握った瞬間。
 正義の使者に変身する。心地よい熱気が身体に漲り背筋がピンと伸びる。やがて校庭の片隅で二手に分かれた集団による合戦が繰り広げられた。
  夕暮れから神楽舞があった。舞台前のゴザ席には大人たちが大勢詰めかけていた。観客の前には御馳走を一杯詰め込んだ重箱とお酒のビン、コップが並ぶ。


 舞台上では金銀衣装に身を包んだ武者姿の演者、舞台横から笛、小太鼓、真鍮製の鐘のチャンチキ、チャッパの音色が響く。
 舞台は一転して白髪を振り乱した酒呑童子とその部下との宴会場面。最高緒に達した時、下手から源頼光と四人の武者とが現れる。続いて舞台は暗くなりスポットライトの中、激しい鍔迫り合いの攻防、入り乱れて乱舞。やがて太鼓の音に合わせるよう静かになり、日本刀を頭上に掲げての金銀衣装の源頼光の口上。エンディング・・・・。


 京助の中学校の修学旅行は京都奈良大阪だった。教室で習った歴史の跡を辿りながら自分が今生きている故郷と日本列島の歴史出発でもあるの古代世界が繋がっているの感じた。
 京都の神社、仏閣の大きさには驚いた。奈良では都のあった市内を取り巻く環境に古の人たちが生活していた古代の空気の感触が皮膚感覚で伝わってくるようだった。
 さらに建物内部に入ってゆくと何百年もの歴史を経ても朽ちなく現存している国宝や重要文化財に指定されている仏像、絵画、古文書など数多くの貴重な所蔵品(宝物)があった。その時代の人々と共に有った環境に浸る気分だった。

 その中でも京助の心が動いたのは日本刀だった。特に魅力を感じたのは刃先を上にして刀身に施された刃文といわれる波模様だった。
 後年知ったことだが『刃文は、熱した刀身を水に漬ける焼き入れの際に、急速冷却されることによって鋼の成分が変化してできる「沸(にえ)」や「匂(におい)」と呼ばれる細かな粒子で構成されています』と有った。さらに「波紋(はもん)」は、刀鍛冶作ります。製作の最終段階である「焼き入れ」のプロセスにおい て、刀工が職人技と熱処理の科学を用いて刃文をつくる』と。

 

 そういえば京助は観た映画に日本刀にまつわる映画が多くあった。長男と映画館まで出かけて観た「もののけ姫」には刀の製造場面も出てきた。この他、トム・クルーズが主役の「ラストサムライ」も思い出した。最近の話題作品「鬼滅の刃」の作品中にでてくる”日輪刀”(にちりんとう)は日本刀の陶工過程を経て製作された刀という話が何処かに書いてあったのを思い出した。

 次回に続く