藍染×ギン

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並んだリンゴ飴 あなたと歩く道
気持ち はやるように 響き渉る太鼓の音

するりと水風船 指をすりぬけた
地面でやぶれはねた水 浴衣の裾濡らす

夏のせい 恋じゃない
切なくなるのは
傷つくだけだと 歯止めを掛けたその時

引き寄せられた手 心の音 夜の風
戸惑いながらも もっとあなたを知りたくなる

少しあたたかい風 頬をかすめてく
遠くで鳴り始めた 雷に空見上げる

雲が行く 夏が行く まだ帰りたくない
触れてくれた
理由が聞きたくて聞けない

隣に並んで ただ黙って のぼり坂
歩幅合わせてくれる 優しさも愛しくなる

やぶれた水風船は もう戻らない
気付いてしまった私も

もう引き返せない

引き寄せられた手
私の髪 触れた指 他の誰かじゃなくて

君の温もりがいい…





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今回は、私の好きな歌を藍ギンのイメージ画像と共に合わせて載せたものだ。

藤田麻衣子さんが歌うこの「水風船」は、聴けば切なくなるが、良い歌だよ。


良ければ聴いてみると良い。

bleach-aizen1さんのブログ-NEC_0058.jpg

ギン×藍染

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あれから何時間も机と向かい合っている。

不意に視線を窓の外に向けると、外は暗く、夜空には光り輝く大きな月が浮かんでいた。


「満月か…」


月明かりが差し込むその部屋で、藍染は小さく呟いた。



『藍染隊長、まだ起きてはります?』


この部屋の扉の前で聞こえてきた声の主は、三番隊の隊長を勤める“市丸ギン”の声だった。


「起きているよ」


返事を返すなり、市丸はその部屋の扉を開け中に入って来た。

市丸が藍染の居る五番隊へと自ら足を運ぶのは、藍染に会うためだけで普段、朝や昼間は訪れる事はない。


「こんな遅い時間帯に、僕のところに来るとはね」


『えらいすんません。今日は雛森ちゃんが遅まで任務してはったんで、来る時間が遅れてしもうたんですわ』


「来なくていいよ」


『またそない酷い事言いはって…』


藍染の言葉に眉を眉間に寄せるが、直ぐに笑いながら相手の言葉に応える。


「ギン…僕はただ、君のその勝手な行動が許せないと言っているんだ。いつになったら分かってくれるんだい?」


その理由は後の騒動で分かる事だが、藍染は前々から市丸のちょっとした勝手さが気に入らず苛ついていたのだ。


『いつになっても変わらへんよ。ボクは藍染隊長が好きやから、隊長に毎日会いたくてこうして我慢して、夜にだけ来て会ってるんや。ホンマは一日中、隊長の傍に居りたいんやで?』


「それは君の勝手な気持ちだろう?」


市丸の藍染に対する想いを跡形もなく振り払ってしまった藍染に、市丸は苛つきを見せる。


『藍染隊長、ボクは本気やで?』


先程よりも声のトーンを下げそう言うと、椅子に座る藍染の後ろに回れば、市丸は藍染の体を後ろから抱き締めた。


「やめてくれないか?僕はそんなのに趣味はないよ」


『………』


「──…ッ!」

市丸は耳元でそう囁き、相手の顎を掴んでは自分の方に顔を向けさせ、そのまま相手の柔らかな唇に己の唇を強引と言った形で押し当てた。

藍染は突然の口付けに目を見開き、相手の口付けを振り払えば椅子から腰を上げる。市丸の方を振り向いたかと思えばパンッと乾いた音が部屋に鳴り響いた。市丸の頬を叩いた音だ。


『……ッ…ひっどいわァ…いきなり人の頬叩くやなんて』


「君がいきなりあんな事をしたからじゃないか」


市丸の考えている事は、藍染にも把握出来ないでいた。彼の本気は、冗談なのか冗談ではないのか、全く気紛れと言ってもいい程分かりにくい。


『隊長、ホンマに初めてなん?キスくらいした事ありますやろ?』


「男とした事は一度もないね…」


『ふ~ん…ほな、男に抱かれた事もないんや?』


「余りふざけた事を言うなよ、ギン」


藍染は平然を装い、相手の本気を悪ふざけだと言えばそれに付き合う気はないと告げ市丸を睨んだ。

これ以上はと身の危険を感じたのか、それとも騒ぎを起こさぬようにと思ったのか、藍染は縛道を使おうとしたが、不意に腕を見れば両手首に輪の形をした物が付けられていた。


『あぁ…それ、霊圧を極限まで抑えて、鬼道を使えんくしてまうって言う、技術開発局が新しゅう開発したもんなんやて?』


「いつの間にこんなものを…」


『ちょっと借りてきたんや。ボクが鬼道で、藍染隊長に敵わへんの分かってたから』


「ギン…」


霊圧を極限まで抑え込まれれば、藍染は体の力が全身から抜け膝から崩れ落ちるが、それを市丸が支える。

藍染の頬に触れると、市丸は切な気に話始めた。


『藍染隊長、ボクは心の底からアンタを好きや。愛してる…これは偽りやないし、本気や』


「………」


『今は信じれへんやろうけど、アンタが信じてくれはるまでボクの気持ちは変わらへんし…それに、変わりたくあらへん』


細くしなやかなその手で藍染の髪を優しく撫でれば、強く抱き締め。


『ボクはアンタを愛しとる…誰よりも』



藍染は強く抱き締められるその腕に市丸の想いを感じたのか、口許に小さく笑みを浮かべた。






彼にとっての市丸ギンの存在は、副官である雛森 桃よりも異なり、そしてどんな隊員よりも特別な存在なのだと言う事だ。

藍染が市丸を突き放したのは、彼なりの考えや想いがあった為なのだろう。



一つ言えるのは、藍染惣右介が市丸ギンの事を誰よりも想っていると言う事実は確かな事である。



藍染×ギン

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『愛してる…』

その言葉を君の口から聞く度、私の心臓は酷く痛む。

押し潰されそうな程、苦しくなる。

彼に気付かれない様にと平然を装い、いつも彼の銀色の髪に触れては柔らかく撫でていた。

指に絡ませてはそれを解かし、何度も何度も撫でる。

それはまるで、私が彼を愛おしく思っているかのように。




『藍染隊長?』


それでも…彼に名前を呼ばれる度、私の心は安堵する。

自分の名を呼ばれていると思うと、彼が私を愛しているのだと思えたからだ。




でも、彼には彼を一途なに愛している者が居た。

“吉良イヅル”と言う存在は、私にとって大きな敵。

力は私の方が遥か上に勝ると言うのに、彼を想う気持ちには大きく劣っている。


「(こんなにも君を愛しているのに…)」


彼の気持ちを自分に振り向かす事が出来ないのは何故?











市丸ギンの存在は、私にとって大きな“光”である。

例えて言うなら、夜空に浮かぶ光り輝く“月”だ。

私の孤独を照す優しい光りだった。




「君は私の光だよ」

『それ、大袈裟やで』


冗談なんかじゃない事は、彼にも分かっていたが、恥ずかしかったのか…彼は笑いながらそう答えた。



そんな幸せな君との日々も、君を愛する彼の存在と私の孤独と言う“鎖”が邪魔をする。


それでも私は、ギンの幸せを願ってやらなきゃならない。




「だから今は見守るよ。君が笑顔で居てくれる事を願って…」