愛ママコロッケ 今日はママンコロッケ!手作り!!ありがとうございます、ママン。残業して帰った明かりのない窓の家の台所の電気を点けた瞬間。スイッチを入れるだけの炊飯器とコロッケを見て涙が出そうになりました。出す自信もある!今すぐ泣ける!!いただきます(T∀T)人
無口な友よ、我は語る68 紙屋の店は小さく古かった。 大人が五人も立てば満員になるだろうし、床板は歩くたびに軋む。 どうやら、宿屋の若女将は、床板の小さな反り返りに爪先を引っ掛けたらしい。 紙屋の店番は真っ青な顔で、オロオロとしているだけだった。 ティセットよりいくつか年上のようだが、仕草は子どものよう。 その背後から、紙屋の店主がひょっこりと顔を出す。「どうしたんだい? おっきな声が聞こえたよ」「あうぅ、お、おばあちゃん」 店番が半泣きで、たどたどしく事情を説明する。 話を聞くにつれ、紙屋の店主はしわくちゃの顔から目を覗かせて驚いた。 妊婦が転びかけたと聞いては肝を冷やしたらしい。「すまなかったねぇ。 このとおりだよぉ」「ルネさん、大丈夫ですよ!」「いやー、お腹の子に何かあっちゃー」 元気に笑う宿屋の若女将とは対照的に、しきりに頭を下げて謝罪する紙屋の店主。 良いと言ったのに、紙をオマケしてくれた。 杖を付いた老女に頭を下げられては、居心地はあまり良くない。 三人は早々に店を出た。「ギースはちょっと頭足らずな子なの」 二人の間を歩きながら、宿屋の若女将が教えてくれた。 紙屋の店番はギースと名をいい、成人した今も子どものような言動を取るらしい。 物覚えも悪く、なかなか仕事にありつけず、家族からも見放された状態だった。 その頃、腰を悪くしていた紙屋の店主ルネが引き取ったということだ。「言われた数だけ紙を売る。 頭足らずでもできるって、ルネさんが言ってくれたんだって」「そうだったんですか」 あまり紙に用のないティセットは初めて知ることだった。 言われてみれば、店番ギースが店主に説明した言葉は子どものそれと似ていた。「それにしても、あんたがいてくれて助かったわ」「ホントだ。 ヨウス、ありがとう」 帽子をかぶったヨウスは、苦笑して首を横に振った。「エリルさんが小柄で良かった」「ニッチのお女将さんだったら潰されてたな」 三人は同時に笑った。 宿屋の若女将を宿屋まで送り届けると、ティセットはヨウスを引き止めた。 笑い声の漏れるニッチの店の様子を窓から覗き見て、まだ混み合っていないことを確認する。「今日はホントに助かったよ」 ヨウスを店の横道に誘って、もう一度礼を言った。 ヨウスも周囲を見回して人気が少ないことを確認すると、帽子を取る。 春来祭のときに買った帽子は、外出するときは欠かせなくなったようだ。「明日、発表だろ? 大丈夫そう?」「たぶん。 トルクも、けっこう良かったと思う」「そっか」 ヨウスのことだから大丈夫だとは思っている。 それでも、初めての試験で緊張して散々だった学生もいるから、心配せずにはいられなかった。 だがヨウスは、ティセットより落ち着いているようだ。「また手紙?」「合否を知らせようと思って」 ヨウスが手紙を書き送る人は、北大陸の帝都に住んでいるらしい。 船を使えば、ラディンネル国の統治帝国より近いはず。 行こうと思えば行けないこともない距離だが、母国から出たことのないティセットには遠く感じられた。 ヨウスは異国人なんだと、改めて思った。
無口な友よ、我は語る67 その日もティセットに変わりはなかった。 陽が昇るのと一緒にニッチの親父に付いて市場に出かけ、仕入れた食材に下拵えをしてから朝食にありつく。 朝だけお女将さんの手料理で、暖かい家庭の味が味わえる。 ルフェランに言い損なった言葉は気になったが、努めて思い出さないことにした。 ルフェランもすぐに忘れるだろう。 だから、自分も忘れようと思った。 食堂開店の準備に出ようとしたティセットをお女将さんが呼び止めた。「悪いんだけど、先にエリルの手伝いに行ってくれるかい?」 エリルは宿屋の若女将のことだ。「でっかい腹して、買い物に行くって聞かないんだよ」 宿屋の若女将は、もうすぐ子どもが生まれる。 身重では、出歩くのだって大変だ。 行き違いにならないうちにと店を出て、角を曲がろうとした。 ちょうど良かった。「あら、ティス」 赤い布を頭に巻いた宿屋の若女将は、ティセットを見て微笑んだ。「どうしたの?」「買い物に付き合いますよ」 まぁ、と声を上げる宿屋の若女将。「姉さんったら、ホントたまらず屋ね」 そう言いながらも、やはり一人では心細かったのか、差し出されたティセットの手を握った。「どこ行くんですか?」「紙を買いにね」 ラディンネル国では、一般人にとって紙は貴重品だ。 必要なときに、必要な分だけ買う。 特に宿屋では宿帳に紙を使うので、切らすことができない代物だ。 二人で手をつなぎ、人込みにぶつからないように歩いて行く。 だが、妊婦である印の赤頭巾をした女性を見て、人波は勝手に分かれてくれる。 そうかからず紙屋に着いた。「ちょっと待っててね」 小さな店の前にティセットを残し、宿屋の若女将は店に入った。 しばらく人波を眺めていたティセットだが、すぐ近くで小さな悲鳴を聞きつける。 慌てて店内に駆け込んだ。「エリルさん!?」 首を一回りさせるだけですべてのものが見渡せる店内。 その狭い中で、宿屋の若女将は誰かに支えられていた。 その白い手が膨らんだお腹に添えられているのを見て、ゾッとする。 ティセットは慌てて駆け寄った。「エリルさん、大丈夫ですか!?」「あぁ、ティス、大丈夫よ。 ちょっと躓いただけよ。 ありがとうございます」 最後の言葉は自分を支えている男に向けたものだ。 同じく感謝の言葉を口にしようとしたティセットは、驚いて「あり」までしか言えなかった。「……ヨウス」「久しぶり」 宿屋の若女将の肩を支えたまま、元同室生は頷いた。 久しぶりというほどではないが、いつ見ても美人だ。「まぁ、あんたは、ティスの友だちね」 宿屋の若女将も思い出したようだ。 確か、ティセットが引っ越ししたときに会っている。「ホントにありがと」「お腹は大丈夫ですか?」「大丈夫よ。 あんたが助けてくれたからね」 宿屋の若女将が自分だけで立つのを確認してから、ヨウスの手がゆっくりと離れた。