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 オクラ。
 夏の旬を丼でいただきました。

 茹でたオクラにマヨネーズとゴマドレッシングをかけただけ。

 シンプルいずウマイ!



 っていうか、冷蔵庫開けたら五分の一がオクラに占領されてまして。
 昼行灯さんが
「冷蔵庫開けたくない(´・ω・`)」
とかわがまま言いやがりまして。

 ウマイじゃないか!
 なめんなよオクラを!!

 わたしの体に良いんだぞこのヤロー!o(゜へ゜)○☆





 残暑厳しい日々。
 どうかご自愛ください。

 けっして、素っ裸で冷蔵庫に入るなどという暴挙はお止めください。
 冷蔵庫が壊れます<笑
「サウ?」
「……東大陸の、南……」
「へぇえ!
 それって、抗争のあったとこだろ?
 いつこっちに?」
「…………去年……」
「えぅえ!
 じゃぁもしかして、ふた名の英雄と会った、りし、た……」
 興奮したのは一瞬だけだった。

 東大陸で六年ほど前に、抗争が終結した。
 新興国から土地を奪われた土着の部族が、盗賊団と手を組んだという、変わったものだった。
 結果は、ふた名の英雄とアキシュと呼ばれる人物が後者についたことにより、それから数年で勝利している。

 歴史書の後ろに載るくらい、まだ新しい出来事だ。



「…………去年?」
「…………」
 コクリとヨウスは頷く。
「そ、んな……」
 それまで抗争のあった国にいたのだ。
 ヨウスの年齢だったら、生まれたときにはもう抗争は始まっていたはず。

「あ……こ……こ、抗争…………」
「……参戦していた」
 はっきりとそれは聞こえた。
 もっと雨が強くて、風が轟くように吹いていたら聞かずに済んだかもしれない。

「う…………ウソだ。
 だって、ヨウスは……ろ、六年前っていったら、じゅ、じゅう……三で」
「サウでは十二歳で大人と同じように扱われる」
「じゅっ……」
 十二歳なんてまだ子どもだ。
 そんな歳から武器を手に戦争を駆け回っていたなんて、信じられない。

 ――狩りが、お上手なんです

「!」
 足が震えた。
 ヨウスを直視できない。
「……背中の傷は、捕まって鞭を受けたときのものだ」
「!?」

 反射的に見たヨウスの顔は、知らない青年のものだった。
 堅い岩盤をくりぬいてきた坑夫のように鋭い眼差し。
 これから仕事に向かう傭兵のような空気。
 ――すべて、ティセットの知るヨウスからは縁遠いものだったはずなのに。



「ティス……南大陸に、『ドレイ』と呼ばれる身分があるのを知っているか?」
 唐突にヨウスが尋ねた。
 それは歴史の授業で聞いたことがある。
「一生、使役される人、だろ?」
「彼らの生死も、主人の手にあることは?」
「……え?」

「主人の機嫌が悪ければ蹴られ、前を遮ったからと殺され、飽きたからと売られる」
「…………」
「南の先皇帝は闘戯が好きで、罪人やドレイを獣と戦わせるのを好んだ。
 亡くなった原因は、観戦中に暴走した獣に喰われたからとなっている。
 現皇帝は闘戯を好まず、先代の死を機に闘戯場を解体した。

 東大陸の北部抗争の際、国王側が前線に送った兵士の大半は、食事と寝床を報酬に集めた孤児だった。
 孤児たちは昼間は人を殺し、夜は大人たちの床相手をさせられていた。

 北大陸中部の村では、寒季が来ると老人を畑に埋めるそうだ。
 口減らしと……肥料として」
「…………っうぐ…………」

 できることなら、耳を塞ぎたかった。
 そんな、歴史の授業でも教わったことがない現実は知りたくなかった。
 雨音だけを聞いていたかった。
 ヨウスの口が動くたびに雷が自分に落ちて来るのではと恐れた。

 ティセット、と優しい声で呼ばれる。
 いつの間にかヨウスは、ティセットを真っ直ぐに見ていた。
「事実は、人が考えるより残酷だ」
「…………」

「ラディンネル国は、約五百年ものあいだ、大きな戦争を起こさなかった。
 王がいないにも関わらず、貴族たちが政事を行い、安寧を築いてきた。
 ……すごい、ことだと思う。

 実際には、裏で民が泣くことも遭っていると思う。
 貴族以外を人と思わない貴族だっているだろう。
 でも、五百年の重みはそんなことでは揺るがない」
 ただ、とヨウスは言葉を切った。
 渋い顔で、続ける。

「……ただ、だからと言って、俺は波紋を起こしたくないんだ。
 この国はあと百年、千年、平和な国でいてほしい。
 戦争のバカらしさなんて……その言葉すら消えてしまえばいいと、思っている。
 歴史書から消すことは今からは難しいだろうけど、いつか風化してしまえばいいと思っている」



 長い。
 長い、ヨウスの言葉。
 初めてこんなに長く話すヨウスを見た。

 ヨウスは無口なほうだと思っていた。
(だからって、何にも思ってないわけじゃない)
 当たり前のことを忘れていた。

 ヨウスは人形ではない。
 動いて、考えて、話して、思う、人間だ。

 今目の前にいるのは、戦地を駆けて生き延びた、人間のヨウスだ。



 口を閉じたヨウスは、また俯いて床を見ていた。
 それに向かってティセットは震える唇を開く。
「……ヨウ、ス」
「…………」
「俺、は…………知らないままじゃ、なくて、良かったって思う」
 ヨウスの視線がゆっくりと上る。
「まさか…………」
 でも、いくつか思い浮かぶことがある。
 ティセットの挫いた足に湿布を貼り、川縁の崖に落ちた妊婦と子どもを迷いなく助けたとき。
 乗り合い馬車でぼったくられそうになり、値段交渉してくれたとき。
 ……いかにも旅慣れた一人の青年だった。

 二階建ての屋根から壁を伝って降りて来たときなんて、トルクも驚いてぽかんと口を開けていた。
 まだ他にもいくつか見逃しているかもしれない。
 内気で無口なやつ……早くその考えを改めなければならなかったのかもしれない。



「…………ヨウスは……誰、何ですか?」
 ギュッと固く目を閉じる。
 何が来てもいいように身構える。

「……ヨウス殿は……」
「…………」
「君にとって」
「?」
「どんな位置にいるのかな?」
 視線をクワイトル司祭に合わせると、彼は穏やかに微笑んでいた。

「エイトルに、友人と仲直りするにはどうするべきかなんて尋ねるくらいだ。
 ヨウス殿にとって、君という友人は、貴重な存在なのではないかな?
 革袋と騎獣だけが財産だった彼にとって、初めて抱えきれないものが、君ではないのかな?」



「…………」
 ふと、ティセットは息苦しさに胸に手を当てた。
 視線は老司祭から外れないが、その脳裏には俯いたヨウスの姿が映っていた。

 怖いなんて、思わなかった。
 ヨウスはただ距離をおいて立っていただけだ。
 ティセットの言葉を待っていただけだった。

「……ヨウスは……」
 喉が乾いた。
 お茶が半分残っている。
 飲めばいいのに、手が動かなかった。
 二本も腕はあるのに、両手で自分の胸倉を掴んでいた。

「ヨウスは……と、友だち、です。
 俺にとって、大切な、友だちです」
 それ以上、言葉が出なかった。
 息苦しさはなくなり、手の平に汗をかいていることに気付いた。



 衣擦れの音がした。
「聞こえましたか、ヨウス殿?」
「!?」
 クワイトル司祭の視線を追いかける。

 応接室の出入口。
 ヨウスがそこに、ずぶ濡れの外套を持って立っていた。
 ……俯いて。

「…………」
「何かありましたか?」
「……豪雨になるからと、街からの外出を禁じられました」
 それはそれは、と言いながらクワイトル司祭が立ち上がる。

「冷えられたでしょう。
 今、火を起こしましょう」
「大丈夫です。
 濡れたのは外套だけですから」
 クワイトル司祭はヨウスのそばまで近付くと、その肩をポンと叩く。
「訊いてわからないのなら、実践あるのみです」

 おやすみなさい、と消えていくクワイトル司祭。
 その背中を見送った二人は、一歩も動かずにいた。



 雨は次第に強さを増し、風が轟々と鼾をかきだした。

 帰れなくなったティセットは、クワイトル司祭宅に泊まることになった。
 寝台の上で仰向けになって天井を見ていると、開けたままだった扉の向こうに、いつの間にかヨウスがいた。
「……毛布を」
「あー、そっか」

 ヨウスは中に入ろうとしない。
 起き上がったティセットが、扉の前まで受け取りに行く。
「ありがと」
「……うん」

「…………」
「…………えっと……」
「……おやすみ」
 踵を返したヨウスの腕を掴まえた。
「少し、話さないか?」
 腕を引いてヨウスを中にいれると、扉を閉める。

 寝台の隅に毛布を放り、ヨウスの部屋の時と同じく寝台に座る。
 ヨウスは指定席まで行かず、立ち尽くした。
 相変わらず俯いたまま視線を合わせようとしないので、ティセットはじっと見つめてみた。
 意外と肩幅がある……。

 なぁ、とティセットは話しかけた。
「昼間は、ごめん。
 さっきも俺が謝るほうだったのに……」
「…………」
 ヨウスは首を横に振った。
「……もう、忘れよう」
 幾分大人びた、苦い顔でそんなことを言う。

 こうなったら、とことんまで話してみたい気もしたが、ヨウスはそれを許してくれるだろうか。
 これは、残酷なわがままだろうか。



「あのさ…………」
「……休んだほうがいい。
 明日も早いだろうから」
 いつでも人のことを気にかけるヨウス。
「眠れないんだ」
「…………」
 わがままを叶えてくれるヨウス。
 溜め息をついて、椅子に座る。

「雨、ヒドいな。
 明日の仕入れが大変だ」
「……うん」
「雪の日よりいいけどさ。
 地面が凍ってて、滑って商品全部落としたことあるんだ」
「……そうか」

「実家は山裾でさ、ここよりも雪は積もるんだ。
 よく家が埋まってた。
 ヨウスの生まれたところはどんなとこ?」
「…………」
「俺の町はホント小さくてさ、伯父貴の家に遊びに行くのがスッゲー嬉しかった。
 ここ来たときは、別世界だった!」
「……――……」
 ボソリと、ヨウスが何か言った。
「え? 何?」

「…………サウ……」