学舎の本館前は庭になっている。
正門に続く石畳。
その両脇に立つ木々。
石畳を外れて緑の中に入り込むと、次第に人の視線も隠してくれる。
草木に手入れされた気配はなく、ここまで来ると林と言うべきか。
背の高い木と腰ほどの高さの茂みが続き、足下も隆起が大きくなった。
急がず、自然に歩みを進める。
ほどなく手頃な木を見つけると、背後を見ずに人気を確認。
ふらりと木陰に隠れた。
あ、と声がして、茂みから男が転がり出てくる。
彼が隠れたはずの木陰を覗いた男は、そこに誰もいないことに驚いた。
辺りを見渡しても他に誰もおらず。
まるで煙のように消えてしまったのに肩をガックリと落とした。
落ち込んだ様子で去って行く姿が見えなくなり、もうしばらくしてから彼は木から飛び下りた。
木陰に身を潜めたのではなく、木の枝に飛び乗ったのだ。
男が見失うはずだ。
複雑な溜め息をついた彼は、長く垂らした前髪を確認し、入念に顔を隠す。
それでも隠せるのは目元までで、お面を付けるのが手っ取り早いとは思う。
ただ、それでは不審者として放り出されかねなかった。
それが終わると、彼は待ち合わせ場所へと急いだ。
「どぅわー!」
林の中から出て来た彼を見て、トルクは盛大に驚いた。
「なっ、なんっ、どこから出て来てんだ!?」
「……ごめん」
「寝ぼけてんのか、ヨウス?」
「あー……」
まさか尾行を巻くのに手間取ってなんて言えず。
実は先日から度々、先ほどの変な男に後を付けられるのだ。
実害はない。
今のところ。
だがそのことを知れば、この武科生はさっきの男を捕まえて切りかかりかねない。
いくら貴族子弟のトルクだって、そんなことをすれば大問題。
ティセットはあきれ、ルフェランは嘆くだろう。
だからヨウスは賢明に、嘘をついた。
「夕方と間違えて、学舎を出て行くところだった」
言った途端、トルクがぷぷう、と吹き出して、腹を抱えて笑いだした。
「なんだそれ!?
サイコー!」
トルクに気を使ったつもりだったのに……。
複雑な気分だった。
【終】
正門に続く石畳。
その両脇に立つ木々。
石畳を外れて緑の中に入り込むと、次第に人の視線も隠してくれる。
草木に手入れされた気配はなく、ここまで来ると林と言うべきか。
背の高い木と腰ほどの高さの茂みが続き、足下も隆起が大きくなった。
急がず、自然に歩みを進める。
ほどなく手頃な木を見つけると、背後を見ずに人気を確認。
ふらりと木陰に隠れた。
あ、と声がして、茂みから男が転がり出てくる。
彼が隠れたはずの木陰を覗いた男は、そこに誰もいないことに驚いた。
辺りを見渡しても他に誰もおらず。
まるで煙のように消えてしまったのに肩をガックリと落とした。
落ち込んだ様子で去って行く姿が見えなくなり、もうしばらくしてから彼は木から飛び下りた。
木陰に身を潜めたのではなく、木の枝に飛び乗ったのだ。
男が見失うはずだ。
複雑な溜め息をついた彼は、長く垂らした前髪を確認し、入念に顔を隠す。
それでも隠せるのは目元までで、お面を付けるのが手っ取り早いとは思う。
ただ、それでは不審者として放り出されかねなかった。
それが終わると、彼は待ち合わせ場所へと急いだ。
「どぅわー!」
林の中から出て来た彼を見て、トルクは盛大に驚いた。
「なっ、なんっ、どこから出て来てんだ!?」
「……ごめん」
「寝ぼけてんのか、ヨウス?」
「あー……」
まさか尾行を巻くのに手間取ってなんて言えず。
実は先日から度々、先ほどの変な男に後を付けられるのだ。
実害はない。
今のところ。
だがそのことを知れば、この武科生はさっきの男を捕まえて切りかかりかねない。
いくら貴族子弟のトルクだって、そんなことをすれば大問題。
ティセットはあきれ、ルフェランは嘆くだろう。
だからヨウスは賢明に、嘘をついた。
「夕方と間違えて、学舎を出て行くところだった」
言った途端、トルクがぷぷう、と吹き出して、腹を抱えて笑いだした。
「なんだそれ!?
サイコー!」
トルクに気を使ったつもりだったのに……。
複雑な気分だった。
【終】

