「さいごのクリスマス」⑥ | My-Hero

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ヒーローに憧れた夢。

泣き崩れた私を隆行が廊下へ抱え出すと、そこには大きな窓ガラスが一枚、まるで二人を待っていたかのようにずっしりと構えていた。窓の外には、闇が広がっていた。あるはずの駐車場や街灯までも飲み込んで、ただ真っ黒の世界を何処までも何処までもつくっていた。

止まらない涙に、息継ぎも上手くいかず。苦しくて、また涙が出てくるの繰り返し。廊下のベンチに腰掛けて、掌の中に顔を埋めていると、頭に雫が落ちてきた。雨?ここは病院の中、雨が降ってくる訳ない。じゃあ…見上げると、くしゃくしゃに歪めて涙を落とす隆行の顔がそこにあった。

声を殺して、顔を真っ赤にさせながら隆行が泣いている。そういえば、出会ってから初めて隆行の泣いてる姿を見たかもしれない。喧嘩しても、会社で嫌なことがあっても、感動する映画を観たときでも、隆行は決して涙を流さなかった。

勝手に、隆行は泣かない人なんだって思うようになっていた。そんな筈ないのに。涙がない人なんて、いる訳ないのに。私のせいで、今までずっと我慢させてたんだ。なんでもかんでも、すぐに泣いちゃう私が隣にいたから…。

隆行の目から止めどなく溢れてくる涙を見ていると、自然と私の方は止まってしまった。枯れちゃったのかな。入れ替わって隆行を座らせた私は、いつもしてもらってるように頭にポンポンと優しく手を置いてみた。それでも私の手では、隆行の涙を止めることはできなかった。

彼の側を離れ、吸い寄せられるように窓に近付いていく。改めて隆行に感謝する心と、私って本当に役に立たないなと落ち込んだ心が入り交じると、なんだか頭がボーッとしてきて、何も考えられなくなってしまった。

ただ黒いだけの世界だと思っていた窓の外に、その時何かが飛んでいくのが見えた気がした。何かの光が、ふと目に映ったように思えた。なんだろ?小さくてキラキラした何かが、空いっぱいに飛んでいる。


雪?


いつのまにか私の隣まできていた隆行が、窓に顔をピタッとくっ付けて驚きの声を上げている。


なぁ!これって、雪だよな!

う、うん。雪…だよね?

ミユ、やった。雪だよ。ミユー!


隆行が慌てて病室へ駆け込んでいくと、さっきまで彼がしてたのと同じように、私も窓におでこを付けてみる。ひんやりと冷たい窓のその向こうに、小さな雪がハラハラと舞っている。ミユ、見てる?これが雪だよ。綺麗だね。


ママー!

ミユ?

ママー!はやくーぅ!

ミユ?待ってー

はーやーくぅ!ゆきだるまつくろぅ!

待ってよぉ、ミユ。あ、走ったら危ないからー

へへへ。ママ、サンタさん、ミユのおてがみよんでくれたんだね。

そうだね。良かったねぇ、ミユ。

うんっ!……ありがとぉ。


あれ、ミユ?どこにいるの?雪だるまつくるよー。ミユー?どこぉ?





また つづく。