「恋心を注いで」① | My-Hero

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ヒーローに憧れた夢。

懐かしいなー、この写真。

バスケットボールを小脇に抱えた凛々しい男性の横で、真ん丸に笑う私が小さく並んでいる。身長差は20センチ強。どれだけ贔屓しても、彼氏彼女には到底見えない。どう見ても教師と生徒、良く言ってお父さんと娘。もうちょっと身長高くてスラッとしてたら、写真だけでも彼女になれたかもしれないのに。

それにしてもこれ、笑いすぎでしょ。どんだけ嬉しかったんだよ、私。

自分のくせに、ついつい微笑ましく思ってしまった。写真の中の高校二年生の女の子は、幸せいっぱいの笑顔を咲かせている。そう、彼女は今、先生に恋してるんだ。



ついこの前中学を卒業して、やっと高校生になったと思ったのに、もう二年生。高校生活最初の一年間は、本当にあっという間に過ぎてしまった。二年生は友だちも増え、受験生でもない。故に一番楽しい学年と聞いている。七江(ななみ)はわくわくして新学期を待っていた。

もちろん一年生の頃から続けて見てくれる先生も中にはいたけど、面子はほぼほぼガラッと変わり、今年から新しく担当してくれる先生の方が断然多かった。大須(おおす)先生もその内の一人だった。

大須先生の教科は体育。そして、男子バスケ部の顧問。もともと体を動かすことが好きだった七江は、大須先生と出会って体育がもっと好きになった。

とても待ち遠しくて、他の教科の過ぎてゆく時間は頗る早い。体育のある日は、それだけで一日中幸せだった。

背が高くて強面で、一見近付きにくい先生の様であったが。時々見せる少年のような笑顔が、七江にはとても魅力的に映った。

大須先生は一人だったけど、生徒はたくさんいる。七江は早く自分の名前と顔を覚えてもらいたくて、なるべくいつも先生の近くにいることを心掛けた。そして、積極的に話し掛けていこうと決めていた。


先生ー!これどこに片付けますか?

そこ置いといて。

先生ー!次の体育は何するんですか?

テニス。

先生ー!先生は昔からバスケしてたんですか?

そうだな。


いつもめちゃくちゃ素っ気ない態度だったけど、七江は先生と話せるだけで満足だった。七江が一人で必死に話したり質問したりするのを、先生があっさり一言返すだけの会話であったが。毎回毎回頑張る甲斐あって、徐々にではあるが大須先生の言葉も増えていった。





また つづく。