晃姉ー、いるーー??
なによ、そんな大きな声出して。
良かった、まだいた。今日だよね、出発。駅まで一緒に行くから。
いいよ、雨降ってるし。寒いから、あんたは家にいな。まだ風邪治ったばっかなんだから。無理すると、また振り返しちゃうでしょ。
振り返してもいいもん。晃姉を見送れるなら、風邪くらいドンと来いだよ 。
もう、わざわざ良かったのに。そんなに遠くに行く訳でもないし。会おうと思えばすぐ会えるんだから。
そんなに遠くないって、東京だよ!?めっちゃ遠いよ。産まれてから初めて離れ離れで暮らすんだよ、私たち。
大袈裟っ。同じ日本じゃない。
晃姉は寂しくないの?私がこんなに別れを惜しんでるのに。晃姉は私のこと好きじゃないの?私は好きだよ。ほんとだよ、本当に晃姉のこと好きだよ。
分かった分かった。じゃあ温かい格好してよ。ほら、このマフラー貸したげるから。
ありがとー。これめっちゃ温かいね。
車で来たの?
うん、駅まで乗ってって。
じゃあお言葉に甘えて。いつぶりかしら、あなたの車に乗るの。
相当だよ。私の運転信用ならないって、いっつも避けてるもん。
雑なのよ、あなたの運転。
今日はちゃんと安全運転で行きます!
今日は、じゃなくていつもそうしてもらえると、乗せてもらう機会も増えると思うのですが。
はーい。
晃子の本が出版されてから、12年の歳月が過ぎていた。晃子も那美もすっかり大人になって、立派な社会人として働いていた。
幼い頃から共に過ごしてきた時間が多い為か、2人のすること、成すこと、考えることは実に良く似ている。もしかしたら志す夢でさえも、一緒だったのかもしれない。
そんな2人が同じ仕事場で働くことに、疑問を抱くものは周りに誰一人としていなかった。周りは、ごく当たり前のこととして受け入れた。
晃子は入社して5年。那美と一緒に働いたのはたったの2年だったけど、晃子にはとても楽しく、刺激的な日々だった。晃子はいつしか、那美の幸せを考えるようになった。那美の幸せな姿を思い浮かべるとき、自然と自分もそこにいるのが、晃子には堪らなく嬉しかった。晃子は那美が大好きだったから。
那美の人生は、晃子の人生を追いかけている。尊敬する大好きないとこのお姉ちゃん。小さい頃は家も近所で、毎日のように一緒に遊んでいた。一人っ子の那美にとって、晃子は本当のお姉ちゃんのような存在だった。いつでも憧れの彼女の背中を追いかけることで、那美の人生はとても楽しく充実したものになっていた。那美は晃子が大好きだった。
また つづく。