はい、これ。
うそー。どうやって?あんなにずっと探してたのに、私。
まぁちょっと私が本気出せば、こんなもんよ。
ありがとう。晃姉がマネージャーになってくれて、ほんと私って幸せ者だよね。
大袈裟ね。
ほんとだよ、本当に思ってるよ。
はいはい。これで那美が喜んでくれたのは、分かったから。でも、そんな古いのどうすんの?今をときめく売れっ子作家に、そんな化石みたいな小説、ミスマッチなんですけど。
ありがとね。えへへ、実はねぇ、これ。私が本を描こうって思った、きっかけになった本なんだぁ。
!?、……うそ…
嘘じゃないよ~。さっきっから、ぜーんぜん信用してもらえてないんですけど。
だってこれ、まだあなたは子供の頃の…
子供って。もう中学一年だったんだから、この本が出たとき。
なるほどね。って、十分子供だからそれ。
晃姉はいっつも私のこと子供扱いするんだから~。3つしか違わないんだよ、私たち。
3つもよ。それより、こんな小説を那美が読んでたなんて。しかも作家志望のきっかけがこれだなんて、有り得ないわ。
こんなって、失礼な。これ、すっごくいい本なんだよ。晃姉も一度でいいから読んでみなって。絶対感動しちゃうから。
感動!?何かと間違えてない?感動したことなんて一度もないわよ、私…
え、晃姉もこの本読んだことあるの?
ま、まぁね。
そうなんだ。私はね、この本を読んで作家になるって決めたの。私も自分の描いた物語で、誰かの心にこんなに響かせることができたら素敵だなーって。人の心を自分の言葉で動かしてみたい、って思ったんだよね。それくらい、この本には衝撃受けた。一言で言えば感動よね、感動。
びっくりした。晃子は、初めてきく那美の告白に、何と応えていいか分からず。天才と認めた小さな小説家の、キラキラした瞳をただ見つめ。驚きと戸惑いを隠すことは、出来そうになかった。
恥ずかしかった。那美は、今までひた隠しに、はぐらかしてきた自分のルーツをさらけ出したことに照れ。いつもは落ち着きのある晃子の動揺に、全くと言っていい程、気付くことはないのであった。
また つづく。