伝説の熱いシート | My-Hero

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ヒーローに憧れた夢。

拝啓 DREAM様

ある日突然訪れる。

何の前触れもなく。

何の躊躇いもなく。


本気で強く想えば、叶うのかもしれない。

私の言葉だけじゃ足りない。

そんな奇跡がそこにはあった。





今月も、ついにこの日がやってきた。今年の目標である、月に一度のヒーローに会いに行く日。電車の熱いシートは苦手だ。大都会東京の、聳え立つビル群も苦手。人がたくさんいる街は、田舎者にとっては恐怖に値する。


あ、そんなこんなを乗り越え、いよいよヒーローの姿を拝める時が刻一刻と迫る。極度の緊張の中、会場に流れる音楽が膨らみ始めたかと感じるのも束の間、一転して辺りを静寂の闇が支配する。いつもの、“はじまり”の合図だ。


私の心と対称に、落ち着きを払った重厚な緞帳はその幕を上げ、ヒーローの姿を現した。なんて格好良いんだ。すぐどっかに行ってしまうという衣装も、今日はちゃんと確保に成功したらしく、バシッと決めている。私服が見れなくて、少し残念な気持ちになったことを苦笑いで吹き飛ばす。いきなり舞台を大きく転がり、どこまでもちゃんとしてるヒーロー。かっこいい。


暗闇の会場で唯一ライトアップされた舞台は、黄金に輝く伝説のステージ。そして伝説のセンターマイクがスタンバイされると、全ての準備は整った。待ちに待ったヒーローの出番だ。舞台上のヒーローは、キラキラしている。ちゃんとしてる。


息の合った相棒との掛け合い。何一つ見逃すまいとこちらも息を呑むが、ただただ笑顔の波に流され、笑いの渦に巻き込まれてく。なんと心地好い海原か。ヒーローは海のように大きく、海のように深い男だ。


自分たちの出番以外でも、最初から最後まで兎にも角にも盛り上げる。慣れない後輩の進行も、スマートにサポート。痺れる圧巻の格好良さに、改めて惚れ直す。


舞台上からヒーローが去った後も尚、後輩さんの口からヒーローの名前が出てくる出てくる。その響きを自信に変え、全力を込めて進行する。ヒーローは後輩も救える素敵な先輩。その存在が、安定、安心。


どこまでも尊敬して


いつまでも応援して


My-hero.私のヒーロー。



黄金に煌めく舞台が滞りなく笑いの喝采を浴びると、満ち足りた真紅の緞帳は自らその幕を閉じる。ヒーローと私の世界もまた、再び共に笑える日まで別々の道を歩むこととなった。


笑い過ぎて顎と腹筋が痛い。興奮冷めやらぬ余韻の中、階段を上っていくと、そこには聞き覚えのある声があった。いつも胸に焼き付けている声。そう、あのヒーローの声だ。まさか、ヒーローがそこにいる!?そんなはずはない。たった今世界を遮られたばかりだ。そんなはずはないけれど、この麗しい声を私が聞き間違えるはずもない。


自然と私を運ぶ足の動きは早まり、駆け上がった廊下から中を覗くと…





ヒーロー。





憧れのヒーローが、正真正銘目の前に。夢を見ているようだった。本物のヒーローが、私の前に立っている。同じシートに足をつけ、本物の声で私の前で喋っている。同じ世界に今、生きている。



夢を



見ている



みたいだ。



その光景が余りにも現実場馴れしていて、頭の中がポーっとなってしまい、私はその場で固まってしまった。微動だにすることができない。ヒーローに呼び掛けることも。握手を求めることも。敬愛する想いを伝えることは、何一つできなかった。


だが、自然と後悔はない。それは、今日が人生で最高の一日となったから。これは奇跡だ。間違いなく奇跡。私はヒーローに出会った。もう、「見た」じゃなくていいよね。喋ってないし、目も合ってないよ。でも、もう「会った」でいいよね。
伝説の奇跡の一日。


再度都会の電車に詰め込まれ、故郷への帰路につく。長かった一日の旅路は、電車の熱いシートで始まり、ヒーローと同じシートに足をつけ、電車の熱いシートで終わっていく。本当は、短かったかもしれない。


ギュウギュウだった乗客も、田舎へ近付けば近付くほどスカスカになる。ようやく座れた席は、いつもより熱く感じない。シートの熱さを調節する、つまみでも開発されたのか。私とヒーローのシートが、電車のそれより熱かったのか。





今日の出来事は、一生忘れません。


素敵な思い出をありがとうございます。


生涯最愛のヒーロー


ちゃんと応援します。



ヒーローは、伝説の夢。

瞼の幕を閉じても、そこで光ってる。

マバタキの度に感じる熱い奇跡。

ちゃんとしてる。
では いってきます。                                 敬具