※書きたいところだけ3の続き
「彼のこと? 好きよ?」
わたしの問いかけに対し、何の躊躇も逡巡もなく彼女は答えた。
「きっかけをくれたことに感謝してる」
ありがとう。
ストレートの長い黒髪が、秋風にふわりと揺れた。透けるように白い肌、細い手足。木漏れ日が降りそそぐ中、小さな顔でまっすぐわたしを見つめて、笑った。
綺麗だな、と思う。
見た目だけでなく、内側から滲み出るような優しさも感じられる。
何故、こんなにも違うのだろう。
一緒にいる時間が長いわたしたちにとって、それはたぶん普通のことだったのであまり意識したことはなかったのだが、この時は何故かそう思ったことを覚えている。
わたしより先に恋人ができた、そのことに我知らず嫉妬したからかもしれない。
容姿や才能という点について言えば、彼女はおよそ同性ならば誰もが羨ましいと思ってしまうようなものを持って生まれてきた。姿形はもちろん、頭脳明晰、絵心もありピアノやバイオリンも弾ける。少し天然が入ってはいるが穏やかな性格で、冗談も解る彼女は誰からも好かれていた。
たとえ才能とやらに恵まれていたとしても磨かなければ光らない。忘れてはいけないのは、彼女自身の弛まぬ努力だ。
暇な時間をどのように使うか、それによって将来の自分の価値が決まってくる。
誰かが言ったそんな言葉を、彼女は真剣に受け止め、実践してきたのだ。
ただし、彼女にとっての「暇な時間」という言葉の定義は、わたしたちのそれとは完全に違っていた。
彼女には制約があった。他人が持っていない様々な才能の代わりに、あろうことか彼女は「健康な身体」を母親の胎内にすっかり置いてきてしまった。
自分に許された自由な時間。
それは、生まれつき身体が弱く、幼い頃から入退院を繰り返していた彼女にとってかけがえのないものだった。人は多くの困難を乗り越えていかなければならない。けれども彼女にはそのための明日が見えなかった。決して長いとは言えなかったその時間のひとつひとつを、彼女は懸命に生きようとしたのだ。
だからこそ彼女は優しい。
そう思ったこともある。
でも、きっとこの世に生まれる前から、彼女は誰よりも優しかった。
わたしがそのことに気づくのは、もう少し後の話になる。
あるいは続く