戦闘速度でこんにちは

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※書きたいところだけ5の続き

公園の歩道を抜けるとすぐ商店街がある。15人ほどもいるOB全員で同じ店に入るのかと思っていたが、何組かのグループに分かれて食事をとることにしたようだ。会場に戻るおおよその時間を決めると、それぞれ任意の店に入って行った。

わたしと一緒にいるOBさんは、彼のひとつ上の先輩だった。もうひとり同期の人がいるので、三人で食事をしようという話になった。

「はじめまして」と挨拶をしてきたのは意外なことに女性だった。ショートヘアにジーンズという、ボーイッシュな感じの子だ。体育会系を経験しているせいだろうか、どこか落ち着いた雰囲気がある。格闘技とは縁がなさそうなキレイな顔立ちをしていた。

「いや女性が一緒のほうが落ち着くと思ってさ」
OBさんが言った。キレイな顔と言えば、このOBさんも彼ほどではないがなかなかいい男だなと思う。というよりも全体的に美男美女で構成されているような気がする。入部の際に見た目の審査でもあるのだろうか。

「アイツの友達、だそうだ」
OBさんがわたしのことをチラと見て言ったので簡単に自己紹介をした。
「マジで?」OGさんは目を丸くした。「あのカタブツに女友達とか? 男友達だって見たことないのに?」
「意外といえば意外だけど、当然といえば当然」OBさんは嬉しそうに言った。「アイツ基本的にモテそうじゃんか」
「アンタよりはね」
「失礼しちゃうぞホントに」
「ともあれ」
よろしくお願いしまーす、とふたり同時に頭を下げる。先程までの体育会系の雰囲気はどこへ行ってしまったのか。
というよりも、そもそもが勘違いだったのだ。体育会系の顔をしているのはその場所にいるときだけで、離れてしまえば普通の若者に戻る。当たり前のことだ。

近くにあったファーストフードの店に入ることにした。
「あたしテリヤキとチーズとアイスコーヒー単品で、あとなんかチキンのやつ」
とオーダーしたのはOGさんの方だ。スリムな身体のどこにこんなにいっぱい入るのか、と思っていたら、
「引退して食が細くなったな」
とOBさんが言った。
「なんでセットにしないんだ? ポテトはいいのか?」
「アンタの貰うからいい」
さらに食うのかよ。しかもオレの。
あと『チキンのやつ』って何だよ店員困ってんじゃねーかよ。
出てきたの食べるからいい。それがバーガーだったとしてもあたしは食べる。
やっぱりナゲットでお願いします。

そのやりとりに思わず笑ってしまう。

「やっと笑った」OBさんがわたしを見て言った。「アイツと一緒で笑わない人なのかと思ったよ」
「そうそう、新入生のときなんてすっごく無愛想で」
イイ男はもれなくスカしてるってことを再認識させられたわ。
でも素直なんだよな。
新技とか教えると必死に練習してたよ。
覚えるとすぐ稽古つけて下さい、って真顔で言うんだよな。
おまけに先輩思いなのよ。
テーピングとか、欲しいタイミングで必ず持ってくるんだぜ。
「ホント、カワイイ後輩だよなあ」

最後の部分はふたりがハモった。

不意に過去の記憶が蘇る。
彼と、彼女と、わたし。
仲のいいふたり、笑顔のふたりを眺めて幸せな気持ちに包まれるわたし。

試合場からこちらに駆け寄ってきたときの彼の笑顔は、あの頃と同じような笑顔だったような気がする。
少なくとも、ピアノを弾いた後に見せる、寂しそうな笑顔ではなかった。
ずっと前に失くしてしまった彼の笑顔を見ることができたのは、この人たちのおかげなんだな、と思った。

「彼が」
突然のわたしの呟きに驚いたのだろうか、ふたりが真顔になった。
「あんなふうに笑えるようになって、本当によかったです」

ありがとうございます。

感謝の気持ちは、ほとんど声にならなかった。どうしていいかわからず下を向いた。

大丈夫?

OGさんの声が聞こえた。
頷くことでわたしは答えた。
大丈夫。
バッグの中には、さっき彼に渡しそびれた小さなタオルがある。
ごめん、ちょっと借りるね。
涙が止まるまで。




続くかもしれません