『辺境・近境』 村上春樹
考える葦もいいですが、ここはひとつ元気にカンガルー脚になって外に飛び出しましょう。ノモンハンの鉄の墓場からメキシコ、香川の超ディープなうどん屋まで、村上春樹が歩き、思索した8年間の旅の記録。
僕の人生というのは―何も僕の人生だけに限ったことではないと思うけれど―果てしない偶然性の山積によって生み出され形成されたものなのだ。人生のあるポイントを過ぎれば、我々はある程度その山積のシステムのパターンのようなものを呑み込めるようになり、そのパターンのあり方の中に何かしらの個人的意味あいを見出すこともできるようになる。そして我々は、もしそうしたければ、それを理由 (リーズン) と名づけることもできる。しかしそれでもやはり、我々は根本的には偶然性によって支配されているし、我々がその領域の輪郭を超えることができないという基本的事実に変わりない。学校の先生がどれだけ論理的で整合的な説明を持ち出してこようとも、理由 (リーズン) というものは、もともとかたちのないものに対していわば無理やりにこしらえあげた一時的な枠組みにすぎないのだ。そんな、言葉にできる何かにどれほどの意味があるだろう。本当に意味があるのは、言葉にできないものの中に潜んでいるのではないのか。
『ランドマーク』 吉田修一
関東平野のど真ん中、開発途上の大宮の地にそびえ立つ、地上35階建ての巨大スパイラルビル。設計士・犬飼と鉄筋工・隼人の運命が交差するその建設現場で、積み重ねられた不安定なねじれがやがて臨界点を超えるとき―。
「なんていうか、浜崎あゆみってさ、なんかむしゃぶりついてくるような歌い方するだろ?だから聴いてると気分良くなるんだよ」
『コルシカ書店の仲間たち』 須賀敦子
ミラノの大聖堂の近く、サン・カルロ教会の軒先を借りるようにして作られた一軒の小さな本屋があった。その名はコルシア・デイ・セルヴィ書店、貧しくも生きることに真摯な人々が集う心やすまる出会いの場所だった。
人間のだれもが、究極においては生きなければならない孤独と隣あわせで、人それぞれ自分自身の孤独を確立しないかぎり、人生は始まらない。
『ベイジン 上・下』 真山仁
そこに日本人技術者が赴任して、物語は始まる。
現代社会の不条理、異国に対する先入観と葛藤が入り交じる中、誰も予想しなかった
危機(クライシス)へと転がり始める。圧倒的な迫真感で描かれる登場人物たちの苦悩と
希望。複雑に重なり合う人々の想いが繰り広げられ、やがて誰も予想しなかった驚愕の
結末を迎える。虚実を織り交ぜながら、問答無用のエンターテインメントを繰り広げる
気鋭、渾身の問題作、いよいよ登場!
毎夜それは生まれ、毎夜それは消えるもの、それは希望―。
―諦めからは何も生まれない。希望とは、自分たちが努力し、奪い取るものだ。
『クローズド・ノート』 雫井俊介
香恵はバイトとサークルに勤しむごく普通の大学生だ。ある日、前の居住者が置き忘れたノートの束を見つける。興味本位でノートを手にする香恵。そのノートが開かれた時、彼女の平凡な日常は大きく変わり始める。
「そんなふうに道具にこだわる男なんて、なかなか頼もしいじゃない。道具なんて使えりゃ何でもいいなんて言っている人間が一番信用できないからね」
『白夜行』 東野圭吾
「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。太陽ほど明るくはないけど、あたしには十分だった。あたしはその光によって、夜と昼と思って生きてくることができたの。わかるわね。あたしには最初から太陽なんかなかった。だから失う恐怖もないの」
『ビター・ブラッド』 雫井修介
ベテラン刑事の父親に反発しながらも、同じ道を歩む息子の夏輝。夏輝がはじめて現場を踏んでから一カ月が経った頃、捜査一課の係長が何者かに殺害された。捜査本部が疑う内部犯行説に、曲者揃いの刑事たちは疑心暗鬼に陥るが…。初の現場でコンビを組む事になったのは、少年時代に別離した実の父親だった―。
「蚊なんて、弱い人間が刺されるもんだぞ」
『チーム・バチスタの栄光』 海堂尊
東城大学医学部付属病院では、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門チーム「チーム・バチスタ」を作り、次々に成功を収めていた。ところが今、三例続けて術中死が発生している。しかも次は、海外からのゲリラ少年兵士が患者ということもあり、マスコミの注目を集めている。そこで内部調査の役目を押し付けられたのが、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者・田口と、厚生労働省の変人役人・白鳥だった……。
言葉は輪郭を削る。人は自分の言葉で自分を削る。自分を自分の言葉という棺に閉じ込めて、ゆるやかに窒息させていく。氷室はそれを嫌って、言葉自体を削り取っていった。最小限の言葉で事実を鮮やかに描き出し、ヒトの心をしばる。
『ハリガネムシ』 吉村萬壱
物語の主人公は、高校で倫理を教える25歳の平凡な教師中岡慎一。アパートで独り暮らしをする慎一の前に、半年前に知り合った23歳のソープ嬢サチコが現れる。サチコは慎一のアパートに入り浸り、昼間は遊び歩き、夜は情交と酒盛りの日々を送る。サチコの夫は刑務所に服役中で、ふたりの子どもは施設に預けたままだが、詳しい事情は明らかでない。慎一はサチコを伴い車で四国に旅立つが、幼稚な言葉を使い、見境なくはしゃぎまわり体を売るサチコへの欲情と嫌悪が入り交じった複雑な感情は、慎一の中で次第に暴力・殺人願望へと変容していく。慎一は、自身の中に潜在する破壊への思いを、カマキリに寄生するハリガネムシの姿に重ね合わせる。
「如何なる失敗事に対しても、最大の敬意を払うべし」
『犯人に告ぐ』 雫井修介
連続児童殺人事件―姿見えぬ犯人に、警察はテレビ局と手を組んだ。史上初の、劇場型捜査が始まる。
「どうでしょう……案外、自分の人生のことを他人のせいにできないことくらい、みんな分かってるんじゃないですかな。いろんな意見がある社会で生きているわけでね、みんな自分で落としどころを見つけてやってるわけですよ」