Sapd ~ストーリー~ Episode 1 | 語り手ベルの古い書物庫

語り手ベルの古い書物庫

オリジナル小説を置こうかと思っています。
拙い文ですがどうか温かく見守ってください。

Spirits and people.

Dragons and Angels.

Pledge song of things who ran through.

This story at the time it was over now, and the song.

(人々と精霊。

天使と龍。

駆け抜けたモノ達の契り唄。

これはー、その唄が今であった頃の物語。)




「おう、旅人さんよ。前の街はどうだった?」

広い路に幾多の露店が立ち並ぶ通り、”フォビリット通り”。
その広き路を、武器屋や、防具屋、衣装屋、宿屋、一攫千金を夢見る商人達の露店が埋め尽くしていた。
朝から晩まで開いている露店は、街を渡り歩く旅人にとってとても有難いものである。
彼らは最初から街から街への間の距離を知っているわけではない。例え地図があろうと、天候や体調などで次の街へ辿り着くまでの時間は異なるものだ。
つまり、真夜中に街へ着くことも、真っ昼間に着くこともある。
四六時中開いている露店は、彼らの旅になくてはならない。
その露店の内の一つ、武器屋のカテゴリーに入る露店、”風来坊”という店の主が少年か、青年か―、どちらとも言えない旅人に問うた。
露店商の好奇心は底を知らない。何故なら、旅人は魔物の蔓延る”街”の外を渡り歩く―、つまり、他の”街”の情報を持っているからである。
他の”街”を知っているのならば、その”街”の露店の状況も知ることができ、人気の商品をいち早く取り入れるために旅人に何かしらの事を問う。
そうした原理で少年か、青年かも見分けのつかない旅人は露店商に問いを投げ掛けられた。

「前の街、か。観光街だったのか、宿屋ばかりだったね。」

「そうか。観光街かぁ。俺も行ってみてぇなぁ。」

旅人は巧妙に答えた。
宿屋ばかり、とは、つまり宿屋が多かっただけのこと。
旅人は、決してこの露店商の欲しがる露店情報、自分の露店と同じカテゴリーである武器屋が無かったとは答えていない。
そんなこととは露も知らず、露店商は見ぬ観光街の風景を思い浮かべ、いつか行ってみたいと言葉を漏らす。
その間に旅人は街を渡り歩く自分のパートナー、魔物を切り伏せるための剣を選んでいた。
盾を使わないスタイルの剣術を身に付けていた旅人は、振りやすく軽いフットワークで動ける剣を探す。
目に留まったのは、装飾のほとんど無い、軽鉱で作られた長剣。振り抜きはスラリとしなやかで重さもあまりなく、軽い。
振れば振るほど手に馴染む。
この剣にしよう、と決めた旅人は露店商へ声を掛けた。

「この剣を一つ。いくらだ?」

露店商は剣を受け取り、剣をばつの悪そうな顔で見た。

「ああ、こいつか。あまり装飾が無いからかこいつは中々買い手が付かなくてな。無料でやるよ。元々道端の死体から拝借したもんだしな。」

「・・・そうか。」

旅人は少しばかり、眉を潜めた。
しかし、道端に死体があるのは仕方の無いこと。きっとその死体は旅人だったのだろう。おそらく魔物と戦い、傷つき、街に着いたが治療を受けられなく、死んでしまった。
街より外は魔物の蔓延るこの世界、 エルジェゴノアでは死体が道端に転がっているのはよくあることだった。
そう切り捨て、旅人は有りがたくこの長剣を頂いていくことにした。前の持ち主の分までもしっかり使ってやろう、と。

「有りがたく頂くよ、店主。」

「おう。そんなものでよければな。」

旅人に返事をした店主は改めて旅人の姿を見た。
ローブを目深にかぶってはいるが、体つきと声は男のものである。しかしどこか少年のような、青年のような、そんな雰囲気が窺える。
ローブは煤けていて、旅人がどれ程の道を歩んできたかが分かった。所々血の乾いたような痕も見える。剣を手に取るときに見えた右の腕先は厚手の革手袋に、布地でできた衣服の袖。どうやら熟練の旅人だったようだ。最初はあまりよく見ていなかったため、気がつかなかった。そして、旅人の選んだ剣を渡すときに、旅人が両手で剣を受け取ったものだったので、手袋をしていない、左手の契約印が見えた。高位精霊のものだ。
契約印とは、人が精霊と契約した際に手の甲に浮かび上がる印のこと。
精霊は、契約者と精霊との間の絆の強さや、精霊自体の強さにより、複数の段階に分けられる。
最低位(カナン)から低位(フラカ)、中位(アルクフ)、高位(カロカレイ)、最高位(フローネカフテ)と大雑把に段階分けされているが、細かく分けることもできる。例えば、低位の内の清精(フロス)、晶精(レフス)、霊精(クロクス)、琉精(レクラス)、皇精(レフカロス)、とランクが上へと上がっていく。つまり、一番最低の精霊のクラスは最低位の清精である。
露店商が、旅人の契約印は高位に分類される契約印だと分かったのは、契約印の模様に特徴があるためであった。高位の場合、親指と小指の付け根近くに羽根の模様が入る。
この旅人は、本当に強いらしい。高位ほどの契約精霊となると、精霊自体の強さもそれなりに高くなければならない上に、その精霊と契約出来るほどの腕がなければいけない。

「あまり、契約印を見つめないでくれないか。印に穴が空きそうだ。」

思ったより凝視してしまっていたようだ。旅人は少し恥ずかしがるように言った。

「ああ、すまんな。高位ともなると珍しくてなぁ。」

「そうだな。最近は高位精霊保持者がめっきり減ってしまったからね。」

「ああ。昔は高位保精霊持者も結構いたもんだが。先の第二次エディオパレディ神精(グランドレイド)海戦で駆り出された奴等がほとんど死んじまったみてぇだしなぁ。」

第二次エディオパレディ神精海戦。
その名の通り、海で行われた虐殺は、多くの高位精霊保持者を死へと誘った。
海戦へ駆り出された高位精霊保持者の中には、旅人の知り合いも多くいた。帰ってきた者もいたが、もはや普通の生活は困難なほどであり、契約精霊との絆さえも失ってしまうほどの戦争。
目は虚ろ、体は動かず、口は開かない。そんな人達はみな、戦争の体験者である。
旅人は、戦争が起こっていた頃はまだ低位精霊保持者だったという。おかげで戦争に駆り出されることもなかったと。
戦争の舞台となったエディオパレディは、海と呼ぶことはもう出来ず、抉られた大地を惜し気もなくさらけ出すばかりの荒野になった。誰しもがその地を恐れ、近付く者はおらず、海とは呼べなくなったエディオパレディを、人々はこう呼んだ。
―――――――――龍の災厄(ディジスドラグニア)と。
エディオパレディの名称が何故地名ではなく事象を表す固有名詞になったかというと、そこで起こった第二次エディオパレディ神精海戦は、古より語り継がれる、龍の災厄ほどに等しい悲劇を生み出したしたからである。
人では起こしえない事象を、人ではなく、龍の呼びとすることで、その虐殺の惨状をエディオパレディの呼び名に込めた。
不意に、旅人が口を開いた。

「いつか、ディジスドラグニアに行ってみたいんだ。」

「あんた、正気か!?」

ガタリと商品である剣の擦れる音と、カウンターの揺らぐ音と共に露店商は立ち上がった。その大きな音に、周りの人々は一斉に旅人と露店商を振り返った。
無理もない。あれほどの犠牲者を出した地に行きたいと言うのだから
旅人はそれでもなお、言葉を続けた。

「人は、いつまでも同じところに燻ってはいられない。いつかその場所を出るだろう。新天地を目指すだろう。そうして巡った先に辿り着くのは、ディジスドラグニアだ。人は新しい住みかを求める。より良い住みかを。いずれは、その地に辿り着くだろう。」

旅人はそう言い切り、武器屋を後にした。