スティービー・ワンダー、グローバル・シチズンへのメッセージ | Blackbyrd McKnight プログレッシブ・ファンク・ロック・ブログ

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伝説のギタリスト、ブラックバード・マックナイト。その一環した職人気質な音作りとは裏腹にお茶目なブラックバードの一面を、日本生まれの日本育ち、ミセス・マックナイトがご紹介します。

先日開催されたグローバル・シチズン・フェスティバル。スティービー・ワンダーがトリを務めましたが、私達ファンカティアが着目するのは、彼がパフォーマンスの前に、グローバル・シチズンと呼ばれる観衆に向かって送ったメッセージです。

 

"Tonight, I am taking a knee for America (今夜、僕は、アメリカのために跪く。)"

 

 

息子さんに抱えてもらいながら、膝をつくスティービー、大歓声が起こります。

 

彼のこの行動を理解するには、バックグランドの説明が必要ですね。始まりは去年、NFLのサンフランシスコ49ersのクォーターバック、コリン・キャパニックが、一部の警察官による人種差別に抗議するため、国家斉唱の時に起立するのを拒否したこと。

 

国家への忠誠については、以前のブログでご紹介しました。

 

https://ameblo.jp/blackbyrdmcknight/entry-10464207493.html

https://ameblo.jp/blackbyrdmcknight/entry-10464367096.html

 

当然のことながら、恐ろしいほどの非難の声が上がり、プロスポーツの社会的影響の大きさに比例して、大変なことになったのですが、彼がその理由について、語った後、事態は変わり始めます。

 

アメリカでは白人警官が黒人を射殺し、何の罪にも問われないというケースが相次いでいます。武器も持たず、抵抗もしていない市民を、はっきりとした理由も無しにです。

 

キャパニック選手は、生まれてすぐ白人夫婦に引き取られ、大切に育てられたそうです。彼が有名になった後、名乗り出た生母に、”僕の母親はミセス・キャパニックただ一人だ。”と言って、面会しなかったというエピソードがあります。

 

”人種差別が無くなるその日、僕は起立する。”

 

愛する母親のサポートもあり、以来、彼は国家斉唱中、いつも片膝を立て、他のプレイヤー達にも追従の動きがありました。アフロの7番がキャパニック選手、左は追従するチームメート。右端の人が対照的なこの写真。

 

Photo : Slate.com
 

これは国のために戦う兵士たちへの侮辱だって、え、そんな話じゃないよね。キャパニック選手の思いが全く関係ない方向に歪められていると思っていたら、当事者である兵士達が彼をサポートし始め、フットボール以外のスポーツにも、この動きが広がって行きました。

 

ただ彼自身はシーズン後、チームを自主的に退団し、現在、どのチームとも契約がありません。そのため、彼が膝をつく姿を見ることはもう無いのに、なぜ、この一件が再び大浮上してきたかというと、アメリカ大統領が最近のスピーチで、国家斉唱中に膝をつく選手など首にしろと言ったからなんです。

 

その後も、大統領によるNFL関連のツィートは嵐のように続く。南北戦争の南軍指揮者の銅像撤去をめぐり、死者まで出す大問題に発展しても、明確に差別団体を非難しない大統領。そんな状況だったので、スティービー・ワンダーも黙ってはいられなかったのでしょう。

 

"I didn't come here to preach. But I'm telling you, our spirits must be in the right place. All the time, not just now. Whenever you need to, interrupt hate, stand down bigotry, condemn sexism and find love for all our global brothers and sisters every day.

 

(説教するために来たんじゃないが、言わせてくれ。みんなの心は正しいところになくっちゃいけない。今だけじゃない、いつもだ。必要だと思えば、憎悪をやめさせるんだ。偏見と闘うんだ。性差別を非難するんだ。そして毎日、この地球上に住む全てのブラザーやシスター達を愛するんだ)"

 

<日本語訳:Mrs. McKnight>

 

グローバル・シチズン翌日の日曜日は、終日フットボールの日なのですが、国歌斉唱時に、オーナーまでが一緒に膝をつくチームあり、ロッカールームに残るチームあり、起立はするものの皆が腕や肩を組み、一致団結を訴えるチームあり、今まで見たこともない光景が広がります。

 

NFL全体に広がった抗議活動は、必ずしもキャパニック選手に同調しているものではなく、アメリカ大統領が、憲法で保障された言論と表現の自由を侵す発言をしたことに対する抗議と言った方が、当てはまるかもしれません。でも、この二つ、全くの別物ではないでしょう。キャパニックの思いを突き詰めると、結局は、すべての人間が持つべき自由と平等という権利に行きつく。

 

たった60年前のことです。黒人学生達が、兵士による重装備の警護の元、アーカンソー州リトルロックで、白人学生達と同じ高校に入学したのは。メルティングポット(人種のるつぼ)と呼ばれるアメリカ、人種融合という点では、まだまだ始まったばかり、赤ちゃんです。ハリケーンなどで家をなくした人がいると、アメリカでは無償で自分の家に住むよう申し出る家庭が、信じられないほど沢山あります。そんな美しい、助け合いの精神にあふれた国、それがアメリカです。問題もあるけど、それは、少しずつ乗り越えて行けるもの。でも、言論の自由が奪われたら、違う考えを持つ人間同士の会話は閉ざされてしまう。違うということは悪いことでもなければ、間違いでもない。人それぞれ違いがあることを尊重できないことが、世界を破滅させる。

 

いつの時代にも勇気ある活動家がいる。彼らが命をかけて手にしようとした自由。Funkadelicの名曲、Free Your Mind and Your Ass Will Followでこう歌われています。

 

Freedom is free of the need to be free

自由ってのはな、自由でいたいと思う必要も無いってことなのさ。

<日本語訳:Mrs. McKnight>

 

 

自由ほど、壊れやすものはない。先人が命をかけて残してくれたものを守り、新たな課題を乗り越えていくことが’できるのは、一般市民の力あってこそ。スティービー・ワンダーは、そう、言いたかったんだと思いました。