11月30日にまた哀しいニュースが飛び込んできました。
70年代、80年代を通じて最も大きな商業的な成功を収めた偉大なるバンド、フリートウッドマック(Fleetwood Mac)で最も多くのヒット曲を提供したソングライターであり、且つ、そのアルトよりも更に低い透き通った特徴的なヴォーカルと多彩なキーボード・ワークによりバンドを支えて来たクリスティン・マクヴィー(Christine McVie)が亡くなりました。 相次ぐ訃報もそう言う年回りになってきたから仕方ないのでしょうが・・・・・。
1943年7月生まれですから、多くの英国出身のミュージシャン、ミック・ジャガー(Mick Jagger)、キース・リチャーズ(Keith Richards)、エリック・クラプトン(Eric Clapton)辺りとは同世代になります。 フリートウッドマックでの華やかなヒット・チャート最前線での活躍にスポットライトが当たるため忘れがちですが、彼女の音楽的なバックグラウンドはブルーズにあります。 父親がコンサート・ヴァイオリニスト兼音楽講師であったことから、4歳の頃よりピアノを習い始めています。
その後、彼女はアートスクール在籍時より、友人を介してイギリスのブルーズ・ミュージック・シーンに足を踏み入れ、スタン・ウェブ(Stan Webb)とアンディ・シルヴェスター(Andy Silvester)のバンドに参加します。 その後、彼らが新たに結成したあのチキン・シャック(Chicken Shack)に参加し、ピアノとヴォーカルだけにとどまらず楽曲の提供を行い、2枚のアルバムがリリースされました。 デビューシングルとなった”It's Okay With Me Baby ”はクリスティンによる提供曲でした。 当時の音楽シーンでは、なかなか注目を浴びるには至らず、唯一のヒット曲がエタ・ジェィムス(Etta James)の67年の隠れた名曲とも言える”I'd Rather Go Blind”でした。 この曲でもクリスティンのブルージーなヴォーカルが際立っています。
同じレコード・レーベルのブルー・ホライゾン(Blue Horizon)所属ということで、フリートウッドマックとは一緒にライヴツアーを回ったりして顔なじみになり、彼女はキーボードで2ndアルバムの『Mr. Wonderful』に参加しています。 当時は、ピーター・グリーン(Peter Green)のファンであったようです。 68年にはフリートウットマックのベーシストであったジョン・マクヴィー(John McVie)と結婚し、クリスティン・パーフェクト(Christine Perfect)からクリスティン・マクヴィー(Christine McVie)という馴染みのある名前に変わりました。 これを契機に1970年にはフリートウッドマックに加入し、正式なメンバーとなり、楽曲の提供のみならずヴォーカリストとしてもその存在感を高めて行きました。
フリートウットマックはブリティッシュ・ブルーズをけん引するバンドとしてスタートし、ピーター・グリーン(Peter Green)、ジェレミー・スペンサー(Jeremy Spencer)、ダニー・カーワン(Danny Kirwan)とフロントマンが変わり、ブルーズ色が薄まりフォーク/ロック色が強まって行きました。 その後にオーディションで加入したアメリカ生まれのボブ・ウェルチ(Bob Welch)が主導権を取るようになり、ポップでメロディアスな方向の路線に変わって行きます。 この布陣で合計5枚のアルバムをリリースし、商業的にはそこそこの成功を収めていたといえます。 特に72年リリースの『Bare Trees』はプラチナ・アルバムとなり、”Sentimental Lady”はボブ・ウェルチの代名詞ともいえる曲となりましたね。
アメリカ進出を意図して、バンド・メンバー全員が英国からカリフォルニアに渋々ながら移住していたのですが、ボブ・ウェルチがソロ活動のために脱退してしまい、4人編成であったバンド・ラインアップは活動停止に追い込まれることになります。 ミック・フリートウッド(Mick Fleetwood)が新しいギタリストを探している時に、プロデューサーのキース・オルセン(Keith Olsen)から聴かされたデモテープの中に、『バッキンガム・ニックス』(Buckingham Nicks)と言うアルバムがあり、これがその後の飛躍的な成功に繋がることになる。
これ以降の飛躍的な成功は今更述べる必要もないと思います。 1975年リリースの『Fleetwood Mac』(通称は、”The White Album”)が爆発的な売上げとなり、以降、『Rumours』 (1977)、『Tusk』 (1979)、『Mirage』 (1982)、『Tango in the Night』 (1987)、までこの5人によるラインナップが続きました。フロントに立つ二人、リンゼー・バッキンガム(Lindsey Buckingham)とスティーヴィー・ニックス(Stevie Nicks)の相次ぐ離脱により、代わりのメンバーを補充して活動は続きましたが、以降のアルバム、『Behind the Mask』 (1990)、『Time』 (1995)はさほどの評価は得られませんでした。
クリスティン自身は、バンド・メンバーの中で最年長と言うことと、95年ツアー中に敬愛する父親の死に直面し、ツアーからは引退し、スタジオでのレコーディングにシフトし半隠遁生活のような状態になります。 時折、フリートウットマックのツアーにゲストとして顔を出したり、2枚のソロ・アルバム、『In the Meantime』(2004年)、『Lindsey Buckingham Christine McVie』(2017年)をリリースしたりとマイペースでの活動を続けていました。
個人的には、あそこまで爆発的なレコード・セールスを挙げるほどには魅力を感じることはなく、『Fleetwood Mac』(1975)、『Rumours』 (1977)の2枚のアルバムを手にしただけでした。 ただ、クリスティン・マクヴィーの声質そのものがとても好きだったので、ソロ・アルバムは愛聴していました。 それと、彼女もまた恋多き女性として、その時々のボーイフレンドから多くのインスピレーションを受けたことを包み隠すことなく、楽曲と共にコメントしていました。
なかでも、破滅型のカリスマ性を持つデニス・ウィルソン(Dennis Wilson)とのロマンスは有名な話で、デニスから得たインスピレーションにより多くの楽曲が生まれています。
そんな彼女のことを偲んで、私の心に残る楽曲を紹介して感謝の気持ちを捧げたいと思います。
まずは、エタ・ジェイムス(Etta James)の持ち歌で多くのアーティストにカヴァーされているトーチ・ソングの名曲です。 69年リリースのチキン・シャックによる3rdシングルでした。
□ “I'd rather go blind” by Chicken Shack;
そして、大躍進を成し遂げる予兆とも言える、75年リリースの『Fleetwood Mac』(”The White Album”)からの記念すべき1stシングルとなったこの曲です。 少しハスキーなクリスティンのヴォーカルが印象的でした。
□ “Over My Head” by Fleetwood Mac;
続いて、第4弾シングルとしてリリースされた“Say You Love Me”です。 ミッドテンポでキャッチーなブリッジが印象的で、ベースが曲全体をドライヴして行き、バックで鳴るバンジョーの響きがアクセントになっています。
□ “Say You Love Me” by Fleetwood Mac;
そして、モンスター・アルバムとなった77年の『Rumours』からは、夫婦でバンドメイトでもあったジョン・マクヴィー(John McVie)と離婚した直後にツアー・クルーの一人と恋仲になったことを題材にしたYou Make Loving Fun”です。 ジョン・マクヴィーには飼い犬のことを歌ったのだと説明していたとか、バンド内での男女間の人間模様は悩ましい限りです。
□ “You Make Loving Fun” by Fleetwood Mac;
次に取り上げるのは、『Rumours』からとても内省的な歌詞を持つアコースティックな楽曲です。 レコーディングが終わった後で、頭の中にこの曲が突然舞い降りて来たとかで、僅か30分で出来上がったそうです。 レコーディングは大きな音楽ホールでピアノによるライヴ・レコーディングを行い、ギターのオーヴァーダブを加えただけのシンプルな構成です。 ライヴのエンディングで良く演奏されていた楽曲ですね、私の最も好きな楽曲です。
□ “Songbird” by Fleetwood Mac;
そして、出会ったことが良かったのか、そうでなかったのか、見解は分かれるところでしょうが、天性の”女たらっし”であったデニス・ウィルソンとの濃密でジェットコースターの様な時間の中から生まれた楽曲を紹介しましょう。
まずは、随分と時間を置いてから当時のことを振り返って書かれたのかどうか分かりませんが、1982年リリースの『Mirage』に収録された楽曲、”Only Over You”です。 翌83年12月に帰らぬ人となったデニスへの想いが感じられます。
□ “Only Over You” by Fleetwood Mac;
そして、84年にリリースされた2枚目のソロ・アルバム、『Christine McVie』に収められたこの曲です。 このアルバムには、スティーヴィー・ウィンウッド(Steve Winwood)が参加しており、当時は良く聴きましたネ。
□ “Got a Hold on Me” by Fleetwood Mac;
最後に聴きたいのは、この曲ですね、バンド内の人間関係、特に男女関係のもつれまで持ち込んでしまうと修復するのは難しいと思います。 その大変な時期にこの強いメッセージを持ったこの曲は前を向いて行くことをバンド・メンバーに伝えたのではないでしょうか?!
□ “Don’t Stop” by Fleetwood Mac;
クリスティン・パーフェクト、どうぞ安らかに、そしてピーター・グリーンやデニス・ウィルソンにまた逢えればいいですね・・・・・・。
R.I.P. Christine Anne Perfect