最もお気に入りのブルーズの巨人と言えば、勿論この人、オーティス・ラッシュ(Otis Rush)です。
エリック・クラプトン(Eric Clapton)がブルース・ブレイカーズ時代(John Mayall & The Blues Breakers)にカバーした”All Your Love”を聴いて、その後、オリジナル曲として初めて聴いた時には余りピンとは来なかったのです。 そう、エリック・クラプトンから辿るブルーズの旅が始まっていたのです。 真のブルーズ道を極めるなどと妙に肩に力が入っていた時期です。(関連するブログ、”ブルーズに目覚めた日『Clapton Classics』”はこちら↓↑)
アマチュア・バンドに参加した学生時代には、クラプトンがカヴァーした多くのブルーズ・ナンバーを演奏しましたが、心底ブルーズが素晴らしいとは思えませんでした。 プレイヤーとしては、演奏面における単調さばかり感じてしまい、のめり込むことはありませんでした。楽器を手に取ると、より高度でテクニカルな方向に向かうのは必然的なことなので仕方ありませんネ。
大学を卒業して上京し、新卒で就職し12年間勤務した製薬企業を退職して外資系企業に転職して以降、多くのアップ・ダウンを味わった頃でしょうか、ブルーズを素直に受け入れる気持ちになったのは・・・・・。
結果的に、勤務先企業(外資系日本法人)が身売りして消滅したり、次に就職した企業では競合相手に吸収合併され、180度違う厳しいポジションに異動になったりと、何をしても自分自身の力ではうまく行かない時期に何故かしっくり来たのです。 自分の力ではどうしようも出来ない、大きな流れ(アップ&ダウン)に翻弄され続けました。
頻繁に聴き続けた代表的な曲と言えば、”Double Trouble”でした。
□ Otis Rush - “Double Trouble” from 『The Cobra Sessions 1956–1958』 ;
歌詞の内容ですが、
Lay awake at night,
Oh so low, just so troubled.
Can't get a job,
Laid off and I'm having double trouble.
Hey hey, to make you've got to try.
Baby, that's no lie.
Some of this generation is millionaires,
I can't even keep decent clothes to wear.
Laugh at me walking,
And I have no place to go.
Bad luck and trouble has taken me
I have no money to show.
Hey hey, to make you've got to try.
Baby, that's no lie.
Some of this generation is millionaires,
I can't even keep decent clothes to wear.
Lay awake at night,
Oh so low, just so troubled.
Can't get a job,
Laid off and I'm having double trouble.
と云う具合に非常にベタな内容ですけれど、心に沁み亘りました。マイナーキーのやりきれない感情を爆発させたかのようなスロー・ブルーズ、ウィスキーを片手に夜な夜な聴き続けました。 オーティスのゴスペルを体感したかのようなヴォーカルがあればこそ成立する楽曲だと思います。
□ Eric Clapton- “Double Trouble” from 『No Rerason To Cry』 in 76 ;
さて、オーティス・ラッシュですが、レコーディングの機会にはあまり恵まれず、何故か発売延期(お蔵入り)になったり、レコード会社が倒産したりと、絶頂期の演奏がきちんと収められたスタジオ・レコーディング音源は数少ないのが現実です。 日本公演は75年が初来日となり、以降も86年、94年と回数を重ねており、独自企画でのライヴ盤もリリースされています。
86年に2度目の来日公演がありました、「ザ・ブルース・ショウ」と云うタイトルで全国を回りました。 バックを務めたのは、近藤房之助&ブレイク・ダウンで、初めてのブルーズ体験でした。 義務感にも似た気持ちでティケットを買い求め、臨んだライヴでしたから、最初から違和感の塊で最後まで楽しめませんでした。 ですから、全く記憶がありません。
そして、程なくして2度目の、そして、最後の機会が訪れます。 94年12月に行われた“パークタワー・ブルース・フェスティヴァル“(Park Tower Blues Festival)にて、オーティス・ラッシュのプレイを目の前で体験しました。
何のメモもパンフレットも残っておりませんが、こじんまりしたキャパシティーの箱であったこともあり、非常にダイレクトにオーティスのヴォーカルが心に響いてきました。 愛好家諸氏による当時の寸評をウェブ上で見ると、印象に残る様な演奏振りではなく、オーティス・ラッシュに常に付きまとう、好不調の波の激しさ、自信のなさが表れたステージだったと書かれていますが、私には本当にブルーズに近づけた一日だったと思っています。
日程:12月14日(水)~18日(日)
出演者:Otis Rush, The Gospel Hummingbirds, Nathan & The Zydeco Cha-chas, Little Sonny
※)オーティス・ラッシュ以外の3組は初来日
ティケットはたったの5,500円でした、今思うと破格な値段ですね。
翌95年にも公演を観に行き、伝説のロバート・ジュニア・ロックウッド(Robert Junior Lockwood)を観ました、その当時で80歳でしたが、とてつもない存在感とオーラを感じました。
□ Otis Rush - “Double Trouble” from 『Live in Japan in 1986』 ;
エリック・クラプトンだけではなく、レッド・ゼッペリン(Led Zeppelin)からエアロスミス(Aerosmith)、スティーヴ・レイ・ヴォーン(Stevie Ray Vaughan)辺りまで、多くのロックミュージシャンが影響を受け、憧れたオーティス・ラッシュ(Otis Rush)をこの目と耳で経験する貴重な一夜のはずでした。
ホールを出たロビーにはバー・カウンターがあり、アルコール飲料が販売されており、いい感じでブルーズを遠目に聴ける環境にありました(懐かしい!)。 そもそも、何処か場違いな新都心の摩天楼の一角の小奇麗な空間で、お洒落でもない格好をしたオッサン達がブルーズを聴くというありえない設定でした。
オーナーであった巨大な寡占企業である東京ガスが、企業イメージ向上の一環で芸術振興に乗り出し、『パークタワー・アート・プログラム』と云う企画を立ち上げていました。 非営利事業として、多種多様なアート・イベントがこの新宿パークタワー・ホールで開催されていました。
□ J. Mayall & the Bluesbreakers with Peter Green - “Double Trouble” in 1969 ;
しかしながら、永続性はなく、旗振り役のトップ・マネージメントが代替わりし、徐々に予算枠が削られ縮小の一途を辿りました。やがて、東京ガスの手を離れ通常のプロモータ主催の営利事業に変わってしまい、2003年に終焉を迎えてしまいました。 現在もホールはありますが、
多目的のイベントホール(レンタル)に転用されています。
今は、39Fから52Fまでのフロアを占めるラグジュアリーなホテル、パークハイアット東京があることで知られています。
さて、オーティス・ラッシュですが、2004年に脳梗塞で倒れてしまい、その後遺症からギターを弾くことは出来なくなり活動停止を余儀なくされております。 もう以前のようにステージに立つことは難しいようで、引退したのも同然と言われています。
□ Otis Rush & Eric Clapton - Double Trouble (Live At Montreux 1986) ;
私が所持しているのはCDで買い直したアルバム中心で、黄金期と言われる50年代後期の若々しい時期、通称”コブラ・セッションズ”と呼ばれるコンピュレーション、『I Can't Quit You Baby: The Cobra Sessions 1956–1958』、そして、76年リリースの名盤『Right Place, Wrong Time』、 94年、16年振りにリリースされた『Ain't Enough Comin' In』、の計3枚になります。
98年にはグラミー賞に輝いた『Any Place I'm Going』をリリースしましたが、個人的には入手するタイミングを逸してしまい、廃盤となってしまっており後悔しきりです。 音楽ストリーミング・サービスではこういったジャンルの楽曲はきちんとは網羅されていませんし、YOUTUBEなどの動画サイトでも限られたものしかアップロードされておりません。 時折、中古レコード店をのぞいて探すのですが目にすることがありません。 何とか国内盤の中古を探して手に入れたいと思います。 これは私の今の”ホームワーク”なのかもしれません(笑)
□ Otis Rush "Homework" from 『Ain't Enough Comin' In』 in 94 ;