『Southern Blood』- グレッグ・オールマンの遺作 | Music and others

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サザン・ロック界を代表するオールマン・ブラザーズ・バンドのヴォーカリスト、故グレッグ・オールマンGregg Allman )の遺作となる『Southern Blood』がリリースされました。 アルバムとしては、2011年リリースの『Low Country Blues』以来6年振りになります。
 
グレッグは、今年の5月27日に69歳で旅立ちました。(その時のブログはこちら↓↑
 
 
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2010年に肝臓移植を受けましたが、その2年後に肝臓癌が再発し、しかも、その直前には片方の肺にがんが転移していたのです。
 
これは彼の決断なのですが、歌うことへの影響を考えて、放射線治療を受ける事を断念しています。 自身の余命と相談しながら、このアルバムのレコーディングに臨んだ事は間違いのない事実です。
 
ですから、『Low Country Blues』の時の様な力強さと迫力はあまり感じられません。
 
グレッグの魂の声を、しっかり噛みしめて聴きたいと思うのですが、気持ちは穏やかではありません。
 
 
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25歳で不慮の死を遂げてしまった、1歳違いの兄、スカイ・ドッグこと、デュエイン・オールマンHoward Duane Allman)の魂の宿るマッスル・ショールズのFAMEスタジオを最期の場所に選んだところに覚悟の想いがあったのでしょう。
 
 
今やブルーノート・レコーズ(Blue Note Records)の社長に収まったドン・ウォズ(Don Was )がプロデューサーを務めることになりました。 
 
本来のコンセプトは、全て書下ろしのオリジナル曲を収録する予定でした。 これは、グレッグの健康状態を考慮して断念し、彼にとって深い意味のある楽曲をピック・アップしカヴァーする方向性に変わりました。
 
ですから、73年リリースの初ソロ・アルバムに倣った、『Laid Back Ⅱ』とも言うことが出来ます。
 
ドン・ウォズは、いくつかのカヴァー曲をグレッグに提示しています。その内、実現した曲が3曲収められています。 
 
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ボブ・ディラン(Bob Dylan)の”Going Going Gone ”、デッド(Greatful Dead)の”Black Muddy River ”、そしてリトル・フィート(Little Feat)と云うか、ローウェル・ジョージ(Lowel George)の”Willin’ ”です。
 
レコーディングは昨年の3月からスタートし、およそ2週間で終了しています。1日4時間程度、2曲に取り組むペースで、グレッグの健康状態に合わせて行われました。
 
 
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その後、バッキング・ヴォーカルなどのオーヴァー・ダビングを行い、今年の1月にリリースする予定でした。 しかしながら、昨年の後半にグレッグの健康状態が悪化した為に、オーヴァー・ダビングが出来なくなってしまい、予定が狂ってしまったようです。
 
レコーディング・データを慎重に聴き返し、最低限のオーヴァー・ダビング、主にバディー・ミラー(Buddy Miller )によるハーモニー・ヴォーカルの追加、に留めたそうです。
 
 
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バッキングのオケだけ録り終えていた以下の2曲は、グレッグのヴォーカルを入れることが出来ず、未完成のまま”お蔵入り”になったそうです。
 
   "Pack It Up"     ( Chandler, Gonzalez )
     ※)originally coverd by Freddie King in '74 on the album 『Burglar』
   "Hummingbird"    (Leon Russell
     ※)originally released  in '70 on the album Leon Russell
 
 
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□ Track-listing *****
1. My Only True Friend     (Gregg Allman-Scott Sharrard)
2. Once I Was     (Tim Buckley-Larry Beckett)
    ※)originally released in '67 on the album 『Goodbye and Hello』
3. Going Going Gone     (Bob Dylan)
    ※)originally released in '74 on the album 『Planet Waves』
4. Black Muddy River     (Jerome J. Garcia-Robert C. Hunter)
    ※)originally released in '87 on the album 『In the Dark』
5. I Love the Life I Live     (Willie Dixon)
    ※)first recorded in '56 by Muddy Waters
6. Willin’     (Lowell George)
    ※)originally released in '71 on the album 『Little Feat』
7. Blind Bats and Swamp Rats     (Jack Avery)
    ※)originally released in '70 on the album 『Ton-Ton Macoute!』 by Johnny Jenkins with Duane Allman
8. Out of Left Field     (Dewey Lindon Oldham Jr.-Dan Penn)
    ※)first recorded in '67 by Percy Sledge
9. Love Like Kerosene     (Scot Sharrard)
10. Song for Adam featuring Jackson Browne     (Jackson Browne)
    ※)originally released in '72 on the album 『Jackson Browne』
 
Bonus tracks;
11. I Love the Life I Live    (Live from the Clay Center, Charleston, West Virginia, May 6, 2016)
12. Love Like Kerosene   (Live from the Tower Theatre, Philadelphia, Pennsylvania, April 1, 2016)
 
□ Personnel
 The Gregg Allman Band
 - Gregg Allman – vocals, guitar, Hammond B3 organ
 - Scott Sharrard – guitar, music director
 - Steve Potts – drums
 - Ronald Johnson – bass guitar
 - Peter Levin – keyboards, piano, Wurlitzer, Fender Rhodes, vibraphone
 - Marc Franklin – trumpet, flugelhorn
 - Jay Collins – tenor saxophone, baritone saxophone, flute
 - Art Edmaiston – tenor saxophone, baritone saxophone
 - Marc Quinones – percussion
 
 Additional musicians
 - Greg Leisz – pedal steel guitar (2, 3, 6, 8, 10)
 - Buddy Miller – harmony vocals (1-4, 6, 8)
 - The McCrary Sisters – backing vocals (3, 4, 6-8)
 - Jackson Browne – harmony vocals (10)
 - Art Edmaiston – horn arrangement (8)
 - Jay Collins – horn arrangement (1, 3, 6, 9)
 - Marc Franklin horn arrangement (2, 4)
 
□  Production
 -Produced by Don Was
 
 - Recorded at Fame Recording Studios, Muscle Shoals, Alabama
 
 
手元に届いたデラックス・エディションには、DVDが付いており、こちらには30分強の”Making of Southern Blood”という映像が収められています。
 
 
□ Gregg Allman | Southern Blood (OFFICIAL TRAILER)

 

 

 
 
 
それから、CDの方には2曲のボーナス・トラックが追加されており、収録曲の内の2曲の昨年のライヴになっております。
 
ということで、早速個々の楽曲の方に移りたいと思います。
 
1曲目は、ツアー・バンドのリーダーでもあり、今回のアルバム全体の音楽監督を務めたスコット・シェラード(Scott Sharrard )との共作による書下ろしナンバー、”My Only True Friend”です。 
 
歌詞の内容は、もうまるで挽歌ですね、旅立つ前に残して行く者達に送るメッセージ(遺言)のようです。
 
この曲は、作曲したスコットが言うには デュエイン・オールマンと会って言葉を交わしている場面を空想しながら、書き上げたそうです。サウンド的には余りヒネリのないストレートなバラッドですが、3本の管楽器がいい味わいを出しています。スコットによるギターの音色がデュエイン・オールマンを思い起こさせるのは気のせいでしょうか・・・・。
 
□ "My Only True Friend" (OFFICIAL VIDEO) by Gregg Allman ;

 

 

 
個人的には、全く意表を突かれた曲が、次のメランコリックなアシッドフォークの”Once I Was ”ですね。 余り、きちんと聴いた事のないティム・バックリー(Tim Buckley )の初期のナンバーです。 
 
グレッグはその昔ティムと連絡を取り合い、一緒に曲を書いてレコーディングするプランを温めていたそうです。
 
しかしながら、ティム・バックリーがヘロインのオーヴァー・ドーズにより28歳で亡くなり、そのプランは夢に終わりました。息子のジェフ・バックリー(Tim Buckley )の方が有名かも知れませんが、グレッグはジェフの曲もスコット経由で教えてもらって、聴いていたそうです。
 
何とも言えないですが、その息子ジェフも30歳で溺死してしまうと云う数奇な運命を辿っています。 そんな事も考えながら聴くと、更に切ない気持ちになります。
 
そして、カヴァーすると曲の良さがよりクッキリとするボブ・ディラン(Bob Dylan)のダークなトーンの曲、”Going Going Gone ”です。 自殺を暗示させる楽曲だと言われていますが、曲調だけ聴いているとそんな風には思えません。こんなにも整った美しい曲だったとは・・・。
 
素晴らしい演奏によって、サザーン・ソウルに生まれ変わっています、もう鳥肌ものです。
ボトルネック・ギターが正にデュエイン・オールマンを想い起させます。
 
□ "Going Going Gone"  by Bob Dylan  ;

 

 

 
 
 
 
そして、もっとも意外だった選曲が、グレイトフル・デッドGreatful Deadの曲、”Black Muddy River ”です。80年代以降、デッドとオールマンズはジャム・バンドの双璧のような捉え方をされた時期があります。お互いに敬意を払い合い交流がありましたが、本質的には正反対のバンドのような気がします。 グレッグ自身は、彼らの楽曲は自分のスタイルには全く合わないように思い込んでいました。
 
いざ、実際にスタジオで演奏してみて、その違和感は吹き飛び、前向きに取り組んだそうです。ただ、演奏をオリジナルと聴き比べると、普通のカントリー・ワルツの様に聴こえてしまいます。
 
やはり、デッドって不思議なバンドですね、ボトムが軽いけれど浮遊感が徐々に増してくる、あのグルーヴは独特です。
 
 "Black Muddy River" by Greatful Dead ;
 

 

 

 

 

 
 
真ん中に位置する、5曲目はグレッグにぴったりとハマるブルーズです。 快楽主義を礼賛しているかの様な内容の歌詞ですね。 こちらも、3本の管楽器が控え目ながら良い感じに絡んで来ます。OFFICIAL VIDEOは最高に素晴らしいシーンが詰まっています!
 
□ I Love the Life I Live (OFFICIAL VIDEO) | Gregg Allman - Southern Blood

 

 

 
 
 
次は、ドラッグ禍により早逝してしまった、リトル・フィートのローウェル・ジョージLowel Georgeの最も印象に残る曲です。ドープ(麻薬)に関して歌った妖しい曲ですが、歌詞の内容とは別にとても美しい曲です。
 
 
次は、おどろおどろしいニューオリンズのヴードゥーの様な曲です。 元々は、デュエイン・オールマンのソロ・アルバムとしてスタートしたレコーディングが、ジョニー・ジェンキンス( Johnny Jenkin)のソロ・アルバム、『Ton-Ton Macoute!』としてリリースされた中の1曲です。
 
プロデュースはデュエインとジョニー・サンドリン(Johnny Sandlin)が共同で当たっており、オールマンズのメンバーが多数参加しています。この原曲には、残念ながらデュエインのギターは入っていませんが・・・・。
 
何か、Dr.ジョンが演ればぴったりとハマる様な曲で、あくの強い異色の楽曲ですね。
 
 
そして、オリジナルを挟んで最後を飾るのが、先にブログで紹介した様に、全く新しい楽曲に産まれ変わった”Song for Adam”です。(ブログはこちらです↑↓
 
 
聴けば聴くほど、更に心に響き、そして沁み亘ります。 そして、不思議なことに癒されます・・・・・。
 
 
 
ここまできちんと計画して、全てが予定通りには行きませんでしたが、最期の作品を残す事が出来た事は、グレッグにとって幸せだったと思います。 私にも年の離れた兄弟がいますが、ここまでデュエイン・オールマンに対する愛情を持てるグレッグにある種嫉妬してしまいます。
 
 
Gregory Lenoir "Gregg" Allman (December 8, 1947 – May 27, 2017)
Howard Duane Allman (November 20, 1946 – October 29, 1971)
 

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